「ねぇ、日吉」
「…っ…なん、ですか?」
「好きだよ」
「俺も、ですよ…」
「ふふっ…ありがとう」
突きつけた刃に怯える彼を、心底愛しいと思った。
愛しい彼を独り占めにしたい…日に日に募っていった独占欲。どうすれば彼は俺のものだけになるんだろう。
そう、ずっと考えていた。
このゲームが告げられたとき、ふと頭に浮かんだ考え。
それは…
「ねぇ、日吉。選ばせてあげるね」
「な…にを…ですか…?」
「…死に方を」
彼を、殺してしまえばいい。
そうすれば俺が彼を守ればいいし、誰も彼に近寄らなくなる。
彼は俺だけしか見ていなくて、俺以外の誰も、彼を見なくなる。
「…た…きさ…」
「なに?」
「俺は…」
彼はしっかりと、だけどやっぱりどこか怯えたような顔をしたまま言った。
「…俺は…滝さんに、抱きしめられたまま、逝きたい…です」
「…え…?」
彼の言葉は、あまりにも予想外で、俺の決心を鈍らせるには充分すぎる威力を持っていた。
「…日吉…」
「俺…滝さんになら、殺されてもいいです」
どうして彼は、こんなに優しいんだろう。
どうして…逝きたいじゃなくて生きたいと言わないんだろう。
「…滝、さん?」
黙り込んだ俺の様子を伺うように名前を呼んだ彼を、ぎゅっと抱きしめた。
「…ごめんね…日吉…」
「…滝さん…」
「…ごめんね…っ」
何度も謝る俺を静止した彼の顔には、さっきまでの怯えはなく、優しい笑顔だけがあった。
「…俺…滝さんに会えて、本当に…」
バンッー…!
彼の言葉の続きを聞くことは叶わなかった。
一発の、銃弾によって。
「ひ…よし…?」
「…」
「ねぇ、日吉。起きてよ」
たかが一発の銃弾。
だけど、辺りどころが悪ければ、人を殺すには充分な威力がある。
動かない彼。
溢れ出る紅。
彼の死を告げるには、充分すぎた。
「…日吉っ…」
自分の愚かな独占欲を詫びて、彼と最後まで一緒に生きていようと思い直したばかりだったのに…。
どうやら神様とやらは、俺を許すつもりはないらしい。
「…許さない…」
俺から彼を奪ったヤツも、彼を見殺しにした神様とやらも。
…そして、彼を守れなかった自分も。
彼をこの場に残して行くのは少し気が引けるけど、俺は行かなきゃいけない。
彼を殺したヤツを殺しに。
ソイツを殺したら、必ずまたここに戻ってくるよ。
「…待ってて、日吉…」
彼の血で紅く染まった手を握りしめ、眠っている彼に口づけを交わし、その場から去った。
ナイフと憎しみを抱いて。
(誰が彼を殺したかなんて)
(わからないけど、)
(みんな殺せばいい)
(それだけのこと)
END