BT
ゆっくり傾いで倒れた体。
人間という生き物は弱く、脆い。
たった一発の銃弾で、死ぬのだから。…当たり所が良ければ、だけどな。
動かなくなった元仲間(といっても名前は知らない)の姿をなんとなく眺めていると、暢気な声が耳に届いた。
「お、跡部やん」
「…今度はお前か…忍足」
ここに来てからは初めて会うななんて、世間話でもするかのように笑顔で近づいてくる忍足。
その笑顔と服や顔に付いた血がミスマッチすぎて笑える。
「さて、と…俺は、そこで動かんヤツらと違って優しくないで?」
適当な距離まで近づき、そう言ってにっこりと口元だけを緩ませて笑った忍足は、手に持ったサバイバルナイフに付いた血を舐め取った。
妙に様になるその姿に、少しゾッとした。
「跡部の血は、どんな味なんやろなー?」
「少なくともお前が今まで殺ってきた奴のよりは美味いだろうぜ」
「ふーん…ほなしっかり頂かんとアカンなぁ?」
忍足が一歩、足を踏み出したのを合図に、引き金を引いた。
…パンッ、と乾いた音が響く。
「おっと、危ない危ない。跡部上手いやん」
「お前も、なかなか避けるの上手いじゃねぇか」
「そりゃ、どうも」
にっこりと、相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべながら、くるりと器用にナイフを回す忍足。
さっきまでの奴とは明らかに違う。
油断も隙も、躊躇も、ない。
あるのは殺気だけ。
「ったく、テニスの試合でもそんぐらい力出しやがれ」
「えー。面倒くさい」
「んなこと言ってるから青学に負けるんだろうが」
「え、あの試合って俺が悪かったん?」
「あーん?お前は岳人の保護者だろうが。保護者が責任取るもんだろ、普通」
「…理不尽やー」
下らない話をしつつ、銃を仕舞って腰に下げていたダガーを構えた。
フェアじゃない試合なんてつまらねぇからな。
「ダガーか…跡部はなんやえぇ武器ばっかり持っとるな」
「あん?」
「俺なんか、使えそうなんこのサバイバルナイフと果物ナイフだけやで」
どんだけ至近距離に寄らなアカンの、と不満気に語る忍足。
それでも何人かあの世へ送ってるんだから侮れない。
「…さて、世間話はこの辺にして…本気でいくで」
「…あぁ」
スッと忍足の目が細められる。
それを合図に駆け出した。
俺は忍足に向かって、忍足は俺に向かって。
忍足の腹目掛けてダガーを突き刺すと同時、ぐっと腹に痛みが走り、思わず眉間に皺が寄る。
けれどそれは忍足も同じのようで、眉間にはぎゅっと皺が寄っていた。
「…っは、泣いてもいいぜ?」
「…っ…抜かせ」
軽口を叩いてやると、忍足が腹に刺さったサバイバルナイフを思いっきり引き抜いた。
辺りに紅が舞う。
「!…っぐ」
「…ははっ、えぇ様やな」
痛みに声を漏らした俺に小さく笑った忍足を横目に、腹へと手をやればぬるりとした感触。
1つ舌打ちをして、忍足の腹に刺さったダガーを横に薙いだ。
直ぐ様そのダガーを忍足の喉へと添える。
「…っな…!」
「…はっ…残念だったな、忍足。俺はそんなに甘くねぇ。…あぁ、そうだ。良いことを教えてやる。宍戸や向日を殺ったのは…俺だ」
目を見開いた忍足にじゃあなと声をかけて、喉に添えていたダガーを動かした。
紅の中に倒れた忍足を見ながら、結局忍足も仲間を信じていた愚か者にすぎなかったのだと1人嘲笑った。
…倒れた忍足のポケットからは、向日が大事にしていた羽根のキーホルダーが覗いていた。
紅に染まれ、愚か者
(こんな場所にいて、)
(仲間なんていう絆を)
(信じたヤツが負け)