狂愛









ぽたり、ぽたり…
紅が、彼の白い腕を伝って落ちていく。


「…まだ、意識はおありですか?」

「……」


肩は小さく上下しているのに、返事はない。
口元に耳を寄せても、浅い呼吸が聞こえるだけ。


「…やはりこれだけ血がなくなると、ダメですね」


彼をぶら下げている鎖を外し、床に寝転がせる。
紅の海が広がる床へと。


「…っあか…や…」

「大丈夫ですよ。もう意識はないようですし、いずれ彼らと同じように動かなくなります」


彼ら、のところで部屋の隅に重ねられたヒトの山に目を遣る。
つられて涙で濡れた瞳をそちらに向ける柳君。


「…っ…」

「あぁ、勿体ない。貴方の綺麗な涙をあんなものの為に流すなんて」


柳君はヒトの山を見てぎゅっと唇を噛み締めると涙を溢した。
その涙を拭おうと手を伸ばしたら、嫌だとでもいうように首を振られた。

柳君が首を振る度に鎖がじゃらじゃらと不協和音を奏でる。


「…や、ぎゅう…な…で…」

「何がです?」

「…なん、で…こんな…こと…」

「貴方が愛しいからですよ。愛しい貴方に付きまとう汚らわしい虫共は、全て消さなければならないでしょう?」


全て、貴方の為。
貴方に綺麗なままでいてほしいが為。


「…俺の…せい…?」

「はい?」

「…俺の、せいで…精市たちは…死んだのか…?」

「違いますよ。彼らの自業自得です。綺麗な貴方に近づいた、汚らわしい彼らの責任です」


にっこりと、優しくて綺麗な柳君を安心させる為に微笑んでそう答えた。
それでもまだ涙を零す柳君をそっと抱きしめ、囁いた。


「愛していますよ。誰よりも、何よりも、貴方を」


だから、その綺麗な瞳で他のものを写さないで。
可愛らしい唇で他の名前を紡がないで。
貴方の瞳が他のものを写す度、貴方の唇が他の名前を紡ぐ度、私は嫉妬で気が狂いそうなんです。


「や…ぎゅう…」

「愛しています。本当に」

「…お、れは…っ」

「私のものに、なって下さいますよね?」

「…っ…」


ぽとり、彼の頬を涙が伝って流れ落ちた。
緩く首を縦に振った彼に、思わず口端が持ち上がった。

これから彼は、一生私だけのものになる。



私だけの貴方
(貴方の涙も、)
(貴方の声も、)
(これからは全て)
(…私だけのもの)




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