暴力/死ネタ









むせかえるような香水の匂いと腹に走る痛みに、思わず眉間に皺が寄る。


「ねぇ、聞いてんの?」

「…っ…聞い、とるよ」

「そう。ならいいんだけど」


にこり、笑みを浮かべた女は、再び俺の腹を踵で踏みつけた。
鈍い痛みが走る。


「…ぐっ…」

「ねぇ、痛い?」

「…どう…っじゃろな?」

「随分余裕そうね。……ムカつく」


更に体重をかけて押し付けられる踵。普通に痛い。
この女が上履きじゃなくてヒールとか履いてたら更に痛かったんだろうな…。
なんて考えてると、なんだか視界がぼやけてきた。


「お前…!何やってんだよぃ!」

「…ま、丸井君…!?」

「…ブン、太…?」


ぼやけた視界の中でもわかる、真っ赤な頭。聞き慣れた声。
それと同時に腹から消えた痛みと重み。


「仁王!大丈夫か!?」

「…へーき、じゃよ」


心配そうな声と、優しく触れる手の温もりに、視界が更にぼやけた。
…ホント、優しい奴だな…


「…なんで…丸井君が…っ」

「仁王がミーティングに来ねぇから探しに来たんだよ。…お前はなんで仁王にこんなことしてんだよ。つまんねぇ理由だったらぶん殴るぞ」

「…っ…」


聞いたことがないぐらい冷たい声で女と対峙するブン太。
俺は大丈夫だから、そういう意味を込めてブン太の服の裾を引っ張った。


「…仁王?」

「大、丈夫じゃ」

「なんで…」

「俺が、悪いんじゃ。俺が、ソイツを苦しめた。じゃけ、えぇんよ」


女は苦しいと言った。
なんで男のアンタがあの人を独り占めするのかと言った。
アンタの存在があの人の将来を潰しているんだと言った。
アンタはあの人の邪魔をしているだけなんだと、言った。

俺は女の言葉に、何も返せなかった。


「…俺は、邪魔。俺は…ブン太と、一緒に居るべきじゃない」

「…っ馬鹿野郎!俺は今幸せなんだよ!お前の隣にいれて、お前が隣にいてくれて、幸せなんだよ!先のことなんて知らねぇし、未来で後悔したって関係ねぇ!今俺はお前の隣にいたいんだよ!」

「…ブン、太…」

「俺は、仁王を邪魔だなんて思ったことはない。俺には今、お前が必要なんだよ」


ブン太の言葉に、心が温かくなった。
それと同時に、ブン太の背後で女の顔が歪んで、キラリと光る何かを振りかざしたのが見えた。
危ない、その言葉より先に、俺はブン太を横に突き飛ばした。
…喉に鋭い痛みが走って、辺りに紅が散った。


「…仁王!!」


薄れていく意識の中で、ブン太が俺の名前を呼んだ気がした。





君を思ふ
(ありがとう)
(ごめん)
(さよなら)




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