フラジオレット | ナノ






※ぐるぐる片想いの薄暗い話
※サイケ→津軽メイン














 酷く、抱かれた。彼、折原臨也がレイプまがいの行為を津軽に働くのは今に始まったことではない。過去にも何度か、それも決まって金曜の夜に時折起こっていた。

 扉を開いた臨也は無言のまま津軽に跨り、有無を言わさずにその衣服を剥いでいく。状況が飲み込めずおろおろしていれば自身を手酷く扱われ、まだ慣らしてもいないそこに無理矢理あてがわれ。痛くて悲鳴を上げても彼は無言のままで、動転するあまり彼の舌を噛めば思い切りこめかみを殴られる。行為の最中、津軽としてはとにかく早く終わって欲しいと願う一心で、ただ喘ぎながら臨也が自分に飽きるのを待っていた。どうせ、臨也が自分を抱くのは、自分に彼を重ねているだけなのだから。そう、言い聞かせて。



「い、た」



 むくりとシーツの上で上体を起こせば途端体中に走る痛み。後処理などもちろんないまま、臨也は津軽を投げ出して帰ってしまった。三度ほど殴られた。自分にしては上出来だと津軽は小さく笑う。口端がぴりりと裂け、痛んだ。

 津軽は慣れた手つきでシャワーを浴び、身を整えると、何故かもう一度ベッドの上に戻って来ていた。汚れたシーツは洗濯に出して綺麗な真白いシーツを新しく張ったベッドは先ほどまでとはまるで違うもののようで、上に乗れば乾いた肌が触れ、するりと心地のよい感触がした。まるで嘘のようだと、津軽は思う。先ほどまで気丈に動作をしていた自分さえも、何もかも。そう思った途端になんだか不可解な夢を見ていたような寂しさに襲われ眩暈がした。眩暈は視界を滲ませ、涙はぽたりとシーツに染みを作る。目元の洪水はまるで止まらなかった。



 カタン、遠くで小さな音がした。



「つがる?」



 見れば、歪む視界の向こう側にピンクと白のマーブルが映る。津軽は目を凝らそうとしたが、その目蓋を下ろせば下ろすほど張力によって溜まった涙が視界を遮断する。そうしている間にもピンクと白と、それから黒色も持ち合わせた彼はベッドに乗り上げて津軽の傍らに腰を下ろしていた。



「つがる、どうしたの、なんでないてるの?」
「サイケ、」



 舌足らずに尋ねるサイケはそのコートの袖口で無理矢理津軽の涙を拭った。お世辞にもやわらかいとは言えない素材で作られたコートは津軽の目元を一層赤く染め上げたが、少なくとも不鮮明であった視界は幾分かマシになっている。二、三度瞬きをしてサイケを見やれば、とても困ったような顔をしていた。



「ごめんな、ちょっと、寂しかったんだ」
「さみしい?」
「そう、」



 いつものように臨也に置いていかれて、珍しく感傷的になっていただけだ、そう苦笑すれば、サイケの冷たい手のひらが津軽の両頬を包んだ。まっすぐに、臨也と同じ顔で見つめられる。津軽は戸惑いを隠せず視線を泳がせていたが、サイケは「ねぇつがる」とその口を開いて津軽の視線を結びつけた。思わず逃げ腰になる自身を引き止めて、しばらくの沈黙の後、大きく息を吸い込んだサイケの口からようやく言葉が吐き出される。



「つがるは、さみしくなんかならないでしょ。だって、おれがいるじゃない。いざやくんもしずちゃんも、たとえばみんないなくなっちゃったとしても、おれだけはずうっとつがるのそばにいるんだから」



 だから、さみしくなったらおれをよんでね、そう言ってサイケは津軽の唇を食んだ。ちゅ、といとおしい音を立て離れていくサイケの顔に苦しいほどのぬくもりを感じながら、津軽はサイケの黒髪をゆっくりと撫でる。そうして言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。



「サイケは優しいな」



 いまだ涙の滲むその瞳で、津軽はふわりと笑う。するとどうしてかサイケは一瞬だけ大きく目を見開いて、泣きそうに顔を歪めながらふるふると力なくその首を左右に振った。






「つがるのほうが、やさしいよ」






 サイケは津軽の首に腕を回した。やわらかなその首筋に顔をうずめ、彼は「ごめんね」と小さく呟いた。謝るのは自分の方なのだと、こんな身体をして君の腕に抱かれているのは申し訳ないのだと、津軽はそう思ったが、今だけは目の前のぬくもりに抗えそうにないと、今回ばかりは何も言わずただゆっくりとその目蓋を下ろしていった。
























(ねぇサイケ、君はいつからあのドアの向こうで息を殺していたの?)























わたしのてんしさま





101216

……………………

マジキチ折原とかわいそうな津軽、それと何もいえないサイケたん。静雄←折原←津軽←サイケ風味。
サイケたんはよくわからないけどただ「怖い」から折原を止められずにいるのです。我が家のサイケたんはちょっと頭の弱い幼い子設定なのです。



お題:シュロ









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -