フラジオレット | ナノ








 ふわり、ベッドの上には穏やかな空気が流れていた。お互い何も纏わぬままで、シーツの上に座り込んでいる。臨也は静雄をまっすぐに見つめ、静雄は時折その瞳を見返しながら、少しだけ俯いていた。ねぇシズちゃん、臨也が静雄の頬に触れる。ぴくり、少しだけ困惑をその顔に浮かべ、静雄は視線を上げた。



「ひとつ、実用的な話をしようか」



 戸惑う彼など素知らぬ顔で、臨也はにこりとしながらその口を開く。



「チェーホフは言った、『物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない』と。不要な物は物語に登場してはならない、つまり、俺が今この場にいるのは、俺が今回の話に一枚噛んでるっていう証拠なわけだよ」



 シズちゃんがここに来なくちゃいけなくなって、こんな身売りみたいな関係を俺と続けるようになった原因、その全てにね。

 するり、臨也は静雄の頬を撫でる。何度も何度も、滑るような指取りで輪郭を、目蓋を、唇の先をなぞっていく。この男は何をそんなに楽しんでいるというのだろうか、静雄はただ疑問に思った。



「いらない人間は物語に登場しない、そうだろう?だから、ここでまたひとつ、証明されたことがある」



 静雄は息を吸い込んだ。忘れないように、間違っても今、息絶えてしまわないように。彼の何かが、とても大切な彼の中の何かがちらついているような気がしたから。彼の一言一句を聞き逃さないように、静雄は耳を澄ます。臨也はゆっくりとその口を開いた。






「君の物語に、俺は必要不可欠だ」



 だから、俺の物語にも、君が必要不可欠だ。






 素敵な依存関係でしょ、だから俺はチェーホフが好きなんだ、と彼は言った。そんな正当化などどうでもよくて、静雄はただ近づく距離がゼロになるその瞬間だけを待ち望んでいた。






















(きみはごたくばかりならべるんだね)
(そんなことはもう、どうだっていいのに)






















この感慨に理由など要らない





101002

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なんやかんやごたごたがあって臨也さんとそういう関係になってしまった静雄さん。静雄さんは逆にもう潔いところがあればいいと思うのです…さすが男前。ビッチ一歩手前とも言えなくはない(苦笑)彼の有名な一九八四に影響を受けてしまったなどごにょごにょ。










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