フラジオレット | ナノ





※しずおとめ





















 くい、と裾を引かれて、臨也は重力を見失う。というのは、ちょうど今しがた空になったカップにコーヒーでも注ぎ直そうとソファを立ったところ、隣に座っていた静雄の右手が臨也のTシャツの端を捕まえたからだった。ぐらりと思わず取り落としそうになった黒いマグカップを抱えなおし臨也はクッションを抱えて俯く不機嫌な恋人を顧みる。



「どうしたの?」



 首だけ後ろを振り返って、自分のシャツの裾を掴んでいるのが静雄であることを再確認した臨也は優しい声音でそう尋ねた。静雄は抱え込んだ白いクッションを力いっぱい握り締めたまま、また同じようにその右指で臨也のTシャツを握り締めたまま、視線も合わせようとはせず俯いて沈黙。見かけによらず高級なクッションが悲鳴を上げているようだ、同じように俺のTシャツも。臨也はそう思いながら静雄を見つめていた。臨也が言葉を促すが、彼は頑として喋ろうとしない。



「シーズちゃん?」



 諦めてローテーブルにマグを置き、臨也は静雄の指先からなぞるようにしてその腕を取る。ぴくり、と肩が震えたが、相変わらず横顔の彼はへの字口で。どうしたものかと頭を悩ませながら臨也は目前でゆれる細い金糸を撫でる。二度、三度、しばらくそうしていた後、ついに静雄が重い口を開いた。



「…お前、俺の事どう思ってんだ」
「は?」



 ぼふり、静雄はそれだけ言うと音を立ててクッションに顔を沈めてしまった。くぐもった声が聞こえる。



「何でもねぇ、忘れろ」
「なに、シズちゃん」
「忘れろっつってんだろ」



 顔を背けようと躍起になる静雄の腕を逃がさないようにしっかりと捕まえて臨也はにやりと笑った。読めた、と三日月に歪められたその唇が物語っている。逃げ出そうとゆるく抵抗をしていた彼の頭を腕に抱いて、臨也は静雄の耳元に口を寄せた。






「好きだよ、シズちゃん。愛してる」






 満足?とその耳に囁けば、小さく、あぁ、と返事をする声が聞こえた。照れ隠しからか相変わらず顔をそむけようとはするものの今の静雄にこの場を逃げ出す意欲は無いようで、抵抗の止んだ身体に臨也は思わず音を立てて笑みを零す。ばかだなぁシズちゃんは、そんなこともわからないの、そう揶揄するように笑えば、わからねぇから聞いたんだ、と普段とはまた違ったへその曲げ方をする。いつもなら殴られてるんだろうな、と思いながら臨也はやけに素直ないとしい恋人の顔をぐるりと回し、無理矢理に正面からその瞳を見据えた。



「で、シズちゃんは?」
「………」
「俺だけ言うのは不公平ってやつじゃない?」



 にこにこととても好意的な顔、まさしく好青年のそれでいて静雄の頬を撫でる指先は妙に艶めかしくゆるやかで。ねぇ、と息のかかるほど間近でそう告げれば、真赤な顔をした静雄は視線を逸らして口を尖らせた。



「好き………じゃねぇ」
「…シズちゃん、ここは空気読むとこでしょ?」
「好きじゃねぇよ、手前なんぞ」
「…地味に心臓貫かれるんだけどその言葉」



 あぁ、と眉を八の字にして目を伏せる臨也はわざとらしくその両手で自身の心臓を押さえた。その様子を不機嫌そうな顔で見ていた静雄は数回音もなく唇を開閉させて、それからポツリと。






「でも、嫌いじゃねぇ」






 前よりは、と、ほんとうに小さな声で呟いた。臨也はきっかり三回瞬きをした後、眉尻を下げたままほんとうにだらしない顔で笑った。






















(ねぇねぇシズちゃん、このままベッドインなんてどう?)
(だが断る)
(やだつれない!!)
(うっぜぇなぁ…)






















たった二音節を望む貴方こそがいとおしむべき隣人





101020

……………………

もう…毎度毎度わけのわけらんタイトルで…そしてしずおとめ過ぎて誰コレ状態で…文才が来い。


>>たかたさん
ようやく書き終えました遅くなり申し訳ありません…!ツンデレ…との事でしたがデレ五割増でお送りいたしましたすみません><頂いたシチュエーションはもう本当にかわいらしくてもだもだしていたのに上手く形にすることができず…!精進します><お持ち帰り自由ですので煮るなり焼くなりご自由にどうぞー。

リクエストありがとうございました!










- ナノ -