フラジオレット | ナノ





※拍手四月文の続き
※急に始まる来神で球技大会決勝戦
※みんなで仲良くバレーボールしてる





















 そんなこんなで決勝戦にたどり着いた六人、静雄、臨也、新羅、門田、そして名もなきクラスメイト約二名。幸か不幸か変人の集まりのようなチームに編入されてしまったサッカー部二人は、それなりにボールを拾い、それなりにアシストをするといったなかなかの活躍ぶりを見せていた。が。もちろん、この二人の前では、そんな姿さえ霞の様であるわけで。



「っしゃあ!!」
「っはは、シズちゃんナイス!」
「いやぁホント、あの二人の運動量も半端ないよねぇ。コートから出ても拾いに行ってるよ」
「お前はもうちょっと働いた方がいいと思うがな」



 バコン、と、よもやバレーボールが床を叩いた音とは思えぬ轟音が鳴り響いた後、ネット際には一人ガッツポーズをする静雄の姿があった。右後方、ちょうど静雄の真後ろでは涼しい顔をした新羅が真横の門田に咎められている。それもそのはず、新羅は先ほどからほとんどその足を動かしていない。飛んでくるボールの多くは長身の静雄がトスし、背後へのアタックは門田がその全てをカバーしていた。

 相手コートを見れば、硬直したまま動けない他クラス生徒が数名。さらに右後方ラインギリギリの位置では、体育館の床がぴったりバレーボール大に抉れている。もちろんそれは静雄が先ほど力任せに放ったアタックの被害痕であった。それを見つめて、臨也はにやりと笑みを浮かべる。

 ピーッ!

 審判が再開の笛を鳴らした。



「シズちゃんがかっこいいとこ見せたんなら、」



 トン、こちら側が放ったサーブを軽い勢いで返してくる。それを門田が拾い、名もなきクラスメイトその1がトスを上げた。タン、床を蹴ったのは臨也と、敵二人。臨也はもう一度にやりと笑った。

 ポン。

 強烈なアタックを打つかのような勢いでふりぬかれた臨也の右手はボール寸前でその速度を急激に降下させ、壁となって立ちはだかっていた二人の真横へとボールを軽く押した。拍子抜けなほどゆっくりと、しかし確実に相手のコート内に落とされたボールを見て、ブロックのためジャンプしていた二人は物言えぬまま、唖然。



「俺もいいとこ見せなきゃねぇ」



 そんな彼らに背を向け、臨也は得意のドヤ顔でそう呟いた。その顔を真正面から見てしまったのは他でもない、名もなきクラスメイトその2であった。実に気の毒な話である。彼は何も言えないまま、目を逸らした。

 静雄の豪快な力技に、臨也のトリッキーなプレイスタイル。そのどちらも観客の目を引く華やかなものだった。かと思えば右後方で微動だにしない男もいて、二人ほど目立たないにしろ確実にボールを返し、手堅く点を取っている影の実力者のような男もいる。さらに二人ほど名前も分からないような妙に親近感を抱くごくごく一般的な生徒もいたりする。人々を魅了するには、充分すぎるチームであったのだ、彼らは。いつもは閑散としている体育館も、今日この時間は派手な決勝戦を見ようとする野次馬で溢れかえっていた。



「ラスト、一分!!」



 どこからともなくそんな声が聞こえた。体育館のステージ上を見やれば、確かにタイマーは一分を切っていて。隣に並ぶ得点板は皮肉なことに同点。よくあるクライマックスだ、と門田は汗をぬぐった。



「平和島くんー!がんばってー!!」
「折原君もファイトー!」
「門田!フォローフォロー!」
「岸谷ー!お前ちょっとは働けー!!」
「あと二人誰だ?」
「サッカー部の奴じゃね?まぁがんばれよー」



 普段めったに飛び交うことのない声援。後半はやや投げやりなものだったが、受けなれない黄色い声援を耳にして静雄はどうにもむずがゆい思いでいた。あぁ、早く終わんねぇかな。注目されるのは慣れてねぇんだ。

 その時だった。トン。静雄の腕が、あらぬ方向にボールを弾いた。



「!?ヤベッ…!!」



 振り返れば、ボールは大きく弧を描き壁へと向かって飛んでいく。観客の波が二つに割け、そのちょうど真ん中を通過して球は落下していく。試合終了のホイッスルが聞こえる。もう、終わるのか。静雄は目を凝らした。






 ダン!






 なんの音だ、静雄は目を見開く。いつの間にかクラスメイトをはさんで隣にいたはずの臨也がいない。壁際でうずくまっているのは、誰なんだ。静雄はその顔を歪めた。



「っ臨也!!」



 体育館を揺らすかのような衝撃音は、臨也がコート手前はるか向こうの壁にその身を衝突させた音だった。壁際で臨也は腹を抱え横たわっている。静雄は叫ぶと同時に駆け寄ろうと足を踏み出した、が、それは臨也の声に遮られて。



「シズちゃん!!」



 びくり、思わず足を止めれば、ふいに気づく。臨也が睨みつけているコートの真上、未だ、ボールが宙に浮いている。そうか、彼はボールを拾いに行って、それで。ギリ、静雄は歯を食いしばり、飛び上がる。



「っ…その呼び方やめろっつってんだろ!!」






 ダン。ピピーッ。






「やっ…」
「…マジかよ」
「うわぁ…すごいよ静雄くん僕達優勝だよ!優勝!!」
「お前は何もしてないけどな」



 相手コート側、ラインズマンの旗は上がらなかった。つまり、イン。その瞬間、こちらのチームが一点だけ上回り、ゲームセット。優勝だ、勝ったんだ、周りのクラスメイトの歓声。走り寄るチームメイト達。静雄は踵を返した。



「臨也!!」



 駆け寄った先で臨也は相変わらず地に付していたけれど、その顔には相変わらずの嫌味な笑みを浮かべていた。「なぁに、その顔」と減らず口を叩いて、引きつる顔でさらに一笑。周りの数人が教師を呼び、保健室への移動を促す。静雄は一瞬迷って、それから臨也を肩に担いだ。



「…はは、みっともないねぇ、俺。せっかくカッコよく優勝しようと思ったのにアイタタ」
「…もう黙れ」



 周りの野次馬達を牽制して、静雄は体育館を出た。臨也を肩に抱えたまま、保健室に向けて二人きりで廊下を歩く。歓声が遠くに聞こえる静かな廊下で、静雄はポツリと呟いた。



「充分、だろ」



 もちろん、そんなもの、肩の上にいる臨也には丸聞こえなワケで。



「…え、なにこれシズデレ?それって俺がかっこよかったってこと?もしかしてシズちゃん俺に惚れ直しちゃった?二人きりで保健室ってこれもしかしていやんばかんな事でもしちゃう流れ?ねぇねぇシズちゃ「もうホント黙れよお前」



 ドス。まくし立てるような彼の口調にイラついた静雄が臨也の腹を殴ると、「卑怯だよ…しずちゃ…」とダイイングメッセージよろしくそう言い残し、臨也はがくりとうなだれてしまった。静雄はそのまま無言で保健室の扉を開き、無言のまま臨也の身体をいくつかあるベッドのひとつに放り投げる。カーテンを閉め、保健室を見回した。そういえば、誰もいない。



 静雄はしばらくの沈黙の後、目の前のカーテンをおもむろに開いた。見れば臨也は小さな寝息を立てている。もう一度、ぐるりと周りを見回して、静雄はベッドの淵に座った。そうしてゆっくりと、ゆっくりと身をかがめる。そのまま唇へ、触れるだけのキス。






「ありがと、な」






 静雄の少し照れた、はにかむような貴重な笑顔を見逃して、臨也は心地よい夢の中をさまよい続けていた。
























スポーツの秋ですね


(君に恋する秋でもあります)








101002

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あれこの話って何が書きたかったんだっけ…?と思うような無駄に長く特に落ちもついていない話。たしかカッコいい臨也が書きたかったはずじゃ…あれ…カッコいい臨也さんいたかしら…?むむむ、迷走><










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