フラジオレット | ナノ





※臨静とサイ津は別人
※サイケ&津軽の性格は捏造






















 きょろきょろ



 池袋は今日も人の波に飲まれている。街が人を飲み込むと言った方が一般的だが、実際にこれほど多くの群集を眺めていると、それはまるで蟻の大群が角砂糖に群がる様のように街という存在がちっぽけな人間達に食い荒らされているようなそんな感覚を覚えた。



 きょろきょろ



 通りの賑わいを、忙しなく左右に頭をふりながら走る青年がいた。白い肌、整った顔、ピンクい瞳にピンク色のヘッドホン。白と黒を基調とした中に映えるビビッドカラーが、彼を群集とは違う"個性的な物"として浮き立たせていた。年で言えば二十歳前後の顔立ちをしているのだが、不安気に眉を寄せ迷子のように首を伸ばしながら歩くその動作が彼を幼く見せる。
 ふいに、通りの向こう側を見ていた彼が目を見開いてから、嬉しそうな表情と共に駆け出した。一目散に、白黒のバーテン服目指して。



「つがる!」
「うぉっ!?」



 背後から駆け寄った彼は、バーテン服、もとい平和島静雄の背中に、文字通り、飛びついた。背後からの衝撃に、のんびり煙草を吹かしていた静雄はぐらつく。ぐっ、と堪えて背後を振り返った、途端、ぴしり。彼の額に青筋が浮かぶ音。



「いーざーやー…テメェ、何してやがる」



 パキ、ポキ、静雄が力を込める度、関節が小気味よい音を立てて鳴る。どう考えても危険この上ない状況の中、ヘッドホンの青年は、と言うと、未だ静雄の腰回りにへばりついて嬉しそうな顔をしていた。



「つがる、つがる!」
「あ゛ぁ?ノミ蟲テメェ何わけわかんねぇこと言って…」
「あー、シズちゃんが浮気してるぅー」
「!?」



 腰にまとわりつく男を引き剥がそうと静雄が奮闘していると、反対側から揶揄するような高い声が聞こえた。反射的に振り向けば、思った通りそこには忌々しい黒いコートの男。しかし、予想が的中したことで、静雄の頭は更に混乱する。なんで、だって、今自分の腰に、全く同じ顔の男がへばりついているのに。



「な、いざ…」
「ねぇ、ちょっといい加減シズちゃんから離れてくれない?同じ顔な分余計ムカつくんだけど」
「!つ、がる」



 二人の顔を見比べ、見比べるたびに混乱が深まり、怒りなどどこかへ吹っ飛んで行ってしまったらしい静雄はただ呆然としていた。そんな静雄を余所に、臨也は自分と同じ顔をしたヘッドホンの青年を睨みつける。鋭く光る、赤い瞳に敵意を向けられ、青年はびくりと肩を震わせ、ギュッと静雄のバーテン服のベストを握りしめた。それが更に気に入らない、とばかりに臨也は一層眉間のシワを深くする。



「あのさ、それはシズちゃん。平和島静雄。君の言うつがるくんじゃない」



 臨也が溜息まじりにそう告げると、青年は目に見えてうろたえた。おそる、おそる、静雄を見上げる。そして、本日二度目、目を見開いた。



「つがる…違う、」



 舌っ足らずな口で不自由そうにそれだけ言うと、彼は目にいっぱいの涙を浮かべ始めた。



「ふ、」
「え、お、おぃ!」
「つが、るぅ、ふえぇぇぇ」





「サイケ」





 静雄が冷や汗をかきながら青年に手を伸ばした、と同時にまたも反対方向から声か聞こえた。穏やかな、耳になじむ低音に目を向ければ、ずるり、静雄のグラサンがずり落ちた。カコン、カコン、と現代には不釣合いな下駄の音をさせながら、金髪に着物姿の青年が近づく。



「つがる!」
「サイケ、探したぞ、ぅわ」



 急に左側の重みが消えて、見ればサイケと呼ばれた彼は走り出していた。そのまま着物の彼――津軽に飛びつく。ぐらり、バランスを崩した彼の顔は――静雄と瓜二つであった。



「つがる、つがるっ!」
「おいサイ、んむっ」



 津軽の首筋に抱きついたサイケはそのまま――津軽の唇を奪った。



「ん、ふっ」



 池袋のど真ん中で、人通りの多いこの道で、お天道様が輝く真っ昼間に、目の前で繰り広げられるどうみても男同士二人のディープキス。しかもそれが自分と同じ顔をしているとあっては、まるでたちの悪い盗撮映像のようで。静雄があんぐりと口を開きながら真っ赤な顔をしている反対側で、ヒュウ、と臨也が口笛を吹く音が聞こえた。



「つがる、本物!」
「っは、…サイケ、お前人前でそういうことするなって…」
「つがるー」



 ほんのり頬を赤らめた津軽の抗議もサイケは聞く耳を持たないようで、相変わらず彼に抱きついたままその胸に頭を押し付けている。その様子に、はぁ、と深い溜息をつくと急に、その真青な瞳が静雄を捉えた。



「悪かった、迷惑かけて」
「え、う、お、お前らいったい、」
「サイケデリックドリームに津軽海峡冬景色、でしょ?」
「!!臨也、テメェ、」
「知ってたのか」
「俺は情報屋だよ」



 いつもの薄ら笑いを浮かべながら、臨也が二人に近づいていく。サイケのピンク色の瞳がおびえた色を宿した。そんな彼にお構い無しに、臨也は自分のあごの下に手を持っていき、じろじろとまるで観察するように二人を見回し始める。



「ふーん…不思議なこともあるもんだねぇ」



 散々二人の容姿を見回した後、臨也は津軽の顔を見てにやりと笑った。それに眉を寄せたサイケが、くい、と着物の裾を引っ張る。



「つがる、かえろ」
「え、あぁ」



 わかった、津軽はそう答えると、臨也に「それじゃ、」と言い、何のためらいもなくサイケの手を取って歩き出した。嬉しそうにその手を握り返して、サイケが小走りで後を追う。津軽はすれ違いざまに静雄に「迷惑かけたな」と言い頭を下げ、その後ろでサイケはにこにこしながら手を振っていた。カコン、カコン、下駄の音が遠ざかる。青い着物と白いコートが翻りながら見えなくなっていくのを呆然と眺めながら、静雄は未だに動けないままでいた。



「うーん…」



 と、考え込むような声が背後から聞こえた。びくり、静雄が振り返ると、やけに真剣な顔をした折原臨也。なんだ、こいついつの間に、



「シズちゃん」
「っ、なん、だ」
「着物ってたまんないね、今度ヤるとき着物着てくれなぶはっ!!!!」






 ふわり、今日も池袋の街に黒いコートの男が舞っていた。
























(無邪気な笑顔がかわいかったとか、思ってないからな俺は)
























要は中身の問題です





100717

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流行(?)のサイケ×津軽をかいてみたくてまさかの未知との遭遇、臨静ミーツさいつが。
サイケたんはほんともうかわいくていいと思う…!情報屋の面影ゼロだと思う!津軽さんは足袋エロいはぁはぁ。あらためて着流し萌だと悟った私。二人とも基本少し言葉に不自由。(サイケは喋るが言葉足らず、津軽はしっかりしてるけど無口。)

こんどは着物エロでもry










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