※「こっちむいて、ハニー」の続きっぽいもの
※佐藤君が轟さんにふられたようです
「佐藤くーん、ふられたんだって?」
「……うるせぇ」
どこまでも余計なことしかしないな、コイツは。俺はそう思った。仮にも同僚が長年片想いしてきた相手にふられて、こうして休憩室の隅で俯いているというのに、気使うどころか楽しそうな口ぶりで傷口をえぐるようなことを言ってくる。相馬博臣とはそんな男だった。
「嬉しいなぁ、こんなに早くチャンスがやってくるなんて」
「…なんの」
チャンスだ、と言おうとして、俺はついこの間の出来事を思い出した。キッチンで、相馬に、好きだと告げられた、あの日の出来事を。
「今までいくら言っても告白しなかったのに、急にするんだからびっくりしたよ。あ、もしかして…この間のことがきっかけ?」
にこり、と笑顔で詰め寄られて、俺は何故だか顔に熱が集まるのを感じていた。何でだ、何で俺はアイツのことを。俺は自分の腕の中に顔をうずめる。あの日から俺はおかしいんだ。
轟に、ふられた。一言一句思い出せる、アイツが俺に言ったやわらかい"拒絶"の言葉。どうしてだろう、あんなにも長い間好きでいて、鈍いアイツはあんなにも長い間気付かなくて、あんなにも長い間、俺は心苦しかったはずだ。そして、あの言葉は間違いなく俺の心を抉ったはずだった。
「佐藤くん?」
一言一句思い出せるあの言葉は、どこか腑に落ちないように、すとん、と俺の胸に落ちてきただけだった。それなのに今、あの日の相馬の言葉を思い出して、真っ赤になるほど動揺している自分はどうしてだろう。
「ねぇねぇ佐藤くん、真っ赤になってる君なんて珍しいからできれば写真撮らせて欲しいんだけど」
「うるせぇ相馬、あっち行け」
「ひどいなぁ」
ひどいのはどっちだ、俺はそう悪態をついて相馬を睨みつけようとした。俺は自分の腕の中から顔を上げる。と。
唇に、何か、やわらかい、…いや、単刀直入に言ってしまおう、俺は相馬にキスをされた。
俺が見上げたまま硬直していると、相馬はいたずらが成功した子供のような笑顔を浮かべて俺を見ていた。
「ねぇ佐藤くん、俺のこと意識してくれたの?」
顔、ほんとに真っ赤だよ。
そう言って俺の目じりを指でなぞり、涙を拭うような動作をするものだから、俺は本当に泣き出してしまった。
伸ばされる腕をぼんやりと眺めながら、俺は思う。ふられたばかりで調子のいい事を言うようだが、俺は思う。そして、気付いた。
あぁ、俺は相馬のことが好きなんだ。
「ふふ、佐藤くんって可愛いね」
「…あんま、見んな」
あっちむいて、ダーリン
100601
……………………
「こっちむいて、ハニー」の続きモノ。
八千代さんは杏子さん一筋なので、やっぱり佐藤くんはふられるんだろうなぁ、と思った結果。しかしコレでおいしい相佐の出来上がりですもぐもぐ。人の不幸をなんだと思ってるんだ私(苦笑)
我が家の二人は基本的にこんな感じです。未練がましい男前佐藤さんと略奪愛なドS相馬さん!