フラジオレット | ナノ





「でね、佐藤君、杏子さんったら今日はパフェ三杯も…」
「轟、わかったから」



 チキンライスの入ったフライパン片手に、佐藤くんは盛大な溜息をついた。それから、あら?、とか言ってる轟さんをじろりと睨むと、「仕事行け」と左手で追い払うような仕草をする。それを見た轟さんはがっかりした様子でキッチンを出て行った。あれだけノロケておいて、まだノロケ足りなかったみたい。



「さーとうくん」



 彼女が完全に見えなくなったのを確認してから、俺は佐藤くんに声を掛けた。彼は無反応でチキンライスを炒め続けていた。軽快なリズムの左手とは裏腹に、顔には暗い表情。



「佐藤くーん?」
「仕事しろ、相馬」



 めげずにもう一度声を掛けてみたら一括された。暗いと思った表情はいつの間にか苛立っていて、先ほど轟さんに向けたものよりも幾分鋭い視線が俺を射抜く。じろり、というよりギロリって感じの効果音が似合う強い視線。俺は「まぁまぁ、」と両手で佐藤くんをいなしながら隣に立った。



「大変だねぇ、毎日毎日轟さんの惚気話聞かされて。好きな人の惚気話なんて苦痛だろうに」
「…何が言いたい」
「やだなぁ、俺は応援してるんだよ、佐藤くんのこと」



 だから君が早く轟さんに告白してくれないと、じれったくてたまらないんだ。

 そう言って笑顔を作る。佐藤くんは相変わらず俺のことを睨んでいた。疑わしい、って感じの目だ。しばらくしてもそんな目で俺を見るものだから、俺は溜息をついて、ついには折れてしまった。



「っていうのは建前でね、」
「やっぱりな」
「ひどいな佐藤くん」



 建前、という言葉を聞いた途端、佐藤くんは「ほら見ろ」といった様子で俺から視線を外す。疑惑の目で俺のことを見つめていた佐藤くんは動きを止めていたので、手元のフライパンの中身をひっくり返さなければならなかった。あぁ、ケチャップの焼けるいい匂いだ。匂いに誘われるように俺は佐藤くんとの間合いを詰めていく。ぽん、と肩に手を置いて、振り返った佐藤くんに相変わらずの笑顔で言った。



「本当は、佐藤くんがふられるのが見たくて仕方ないんだ」



 佐藤くんは面食らっていた。片方だけ見える目が見開かれている。耳を疑ってる、って感じだね、ふふふ。俺はそんな佐藤くんの耳元に顔を寄せる。






「早くふられて、俺のものにならないかなぁって」






 ね。



 そう呟いて、俺は彼の肩を放した。佐藤くんは未だに呆然としている。どう考えても炒めすぎのチキンライスがじゅうじゅうと音を立てているけど、俺は放っておいて仕事に戻ることにした。「あぁそう、」思い出して、持ち場に着く前に一言。









「俺、佐藤くんのことが好きなんだ」










 これはそう、よくある片想いの話。




















(片想いで終わらせる気なんてないけど、ね)



















こっちむいて、ハニー





100601

……………………
浮気性の私が手を出しました、working。
「中の人繋がり?」といわれても仕方ない、というか最初はソレ目的で見てたんですが(笑)ハマってしまいました…!相佐!相佐!
相→佐→轟→杏という恐るべき片想い率。佐藤さんを幸せにしてあげたい…が、相佐!(笑)








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