フラジオレット | ナノ




※臨静+帝正
※辛辣な帝人様





















「でね、もうシズちゃんったら可愛いのなんの!普段強がってるくせにベッドの中だと『あっ、臨也…もう、』とか甘ったるい声で俺の名前呼んじゃってさ、それだけでイっちゃいそうだよねぇ!」
「未成年になんて話するんですか臨也さん、確かに静雄さんのギャップ萌えはわかりますがそれを言うなら正臣が一番ですよ。普段のナンパキャラから一転、僕だけを一途に見てくれるあの瞳…わかりますか?」
「お子様には興味ないからわかんないなぁ。あと、シズちゃんをいやらしい目で見ないでくれる?」
「いやらしいのは臨也さんの頭の中でしょう」



 変態、この雑踏の中では本人ですら聞こえないのではないかと思うほどの極小さな声で帝人は呟いたが、目の前の黒いコートの男はわざとらしいほどに怪訝な顔をした。

 場所は池袋、東口五差路。通いなれたこの道が見せる夕暮れの風景はどこか寂しげなのに、街の喧騒がそんな情景すらも飲み込んで妖艶に光るネオン群の夜を待ち望んでいる。駅からほんの数百メートルの交差点からはアイスクリーム屋が見え、夜も近いと言うのに女子高生たちが楽しそうな声を上げていた。

 そんな中、歩道の脇で会話をする二人は、お世辞にも和やかな雰囲気とは言えなかった。先ほどの女子高生ほどではないにしろ二人とも特定の人物の話をする時だけ楽しそうに声を弾ませるのだが、互いに互いのセリフへの切り返しがどうにも辛辣に聞こえる。その雰囲気だけで互いが嫌いあっているのがわかるのだが、二人は一向に会話をやめて歩き出そうとはしないのだ。



「勘弁してよ。俺がこんなにも貴重で有意義な話をしてあげてるって言うのに、君のネタは幼馴染の眼球の色の話だけなの?」
「心外ですね。正臣の瞳の色、髪の色、好きな色、肌の色、全て臨也さんに伝えるのももったいない美しい情報なんです。わかりますか?肌に触れる温度も、とびっきりの笑顔で呼ぶ僕の名前も、全部が全部、きれいなものなのに、」
「肌の白さならシズちゃんだって負けてないけどね。あぁでも、シズちゃんは俺の下で喘いでるときの真っ赤な顔が一番いいんだけど」
「いいかげん警察呼びますよ。公然猥褻罪で捕まれば良いのに」



 きらきらとした、うっとりとしたような顔と、心からの嫌悪を込めたような顔がかわるがわるに二人の間を行き来する。どちらかひとつが相手の顔に張り付けばもう一人は逆の表情をするから、見ていてそれは決められたルーティンで回り続けるからくり人形のようだった。
 今までずっと大げさな身振り手振りで話しをしていた臨也はわざとらしく溜息をついて、それから呆れたように両手を肩の上まで上げて見せた。



「まったく、年上の話は大人しく聞くもんだよ。マナーのひとつも知らないなんて、コレだからガキは嫌いなんだ」
「いたいけな後輩捕まえて延々と卑猥な惚気話する大人にマナーなんて説かれたくないですよ」
「いとしい恋人のことはできるだけアピールしておかないとね。悪い虫がついても困るでしょ?あんなに可愛いんだもの」
「あぁそれだけは僕も同意見です。しかし可愛さなら僕の恋人が上でしょう」
「シズちゃんが、」
「正臣が、」





「ノミ蟲、テメェ何してんだ」
「帝人?なんでこんなとこに?」





 臨也と帝人の口論がヒートアップしてきたところに、急に水を差すような第三者の声が聞こえた。二つの声はほとんど同時に同じ方向から聞こえて、向かい合って声を荒げ始めていた二人は同時に同じ方角を向く。そこに立っていたのは紛れもない、今の今まで二人の会話の中心となっていた金髪のバーテンダーと、同じく金髪の高校生だった。



「シズちゃん!奇遇だねこんなところで!アイス食べてるシズちゃんも可愛いよ!」
「頭沸いてんのかノミ蟲」
「静雄さん、相手しちゃダメっすよ」
「正臣、どうしたのそれ」
「ん?あぁ、静雄さんと一緒にサーティワン行って来たトコ」



 両手を広げ満面の笑みで近づいてくる臨也を左足で牽制すると、静雄は同じ方の手で持っていたアイスクリームを一齧りした。その横で同じようにアイスクリームを舐める正臣が少しだけ自慢気に帝人に笑いかける。



「僕にも、ひとくち」



 歩み寄った帝人がそう告げると、「ポッピングシャワーだぞ」と言ってから正臣はコーンの先を帝人のほうへと傾けた。それを一口齧り、冷たい感覚に帝人は一瞬眉をしかめる。しかしすぐにカラフルな色に似合った様々な甘みと触感が口の中に広がり、帝人は「ありがとう」と言い、にっこりと笑顔を作った。



「ねぇシズちゃん、俺にもひとくt「手前で買え」



 年下二人の一連の甘い動作を眺めた後、静雄に向き直った臨也がとても良い笑顔で放った問いは最後まで紡がれる事なく静雄に一刀両断された。その反応に臨也はすねたような子供っぽい顔をする。甘いものに目がない静雄が分け与えてくれることなどないとはわかっていたが、こうもあっさりと断られては、"アイスクリーム>臨也"という完璧なまでの不等式が成り立っているような気がして思わず溜息が出た。



「…というかシズちゃん、チョコにチョコ乗せてるの?クドくない?」
「あ?こいつはチョコ…二つとも別の種類のヤツだ。見りゃわかんだろ」
「…チョップドチョコレートにベルジャンチョコレートチャンクでしょ」
「…知ってんじゃねぇか」
「知ってるけどさ、」



 ふてくされながらも少しも間違えずに難しいカタカナを淀みなく並べることが出来るのは職業柄だろうか。うなだれて未だぶつぶつとなにかを呟いている臨也の前に、ふいに、こげ茶色の物体が差し出された。見上げれば、アイスコーンを傾ける静雄がいる。



「まぁ、わかるヤツには食わせてやってもいいかなって」
「シズちゃん…」



 他意なく微笑む静雄に、わなわなと震えだす臨也。

 ん、震えだす?

 ついさっきまで欲しがっていたくせに、と、静雄が不思議に思い頭を傾けて臨也の顔を覗きこむ。途端、臨也が顔を上げた。これ異常ないほどその瞳を輝かせながら。



「シズちゃん、ラァァァブ!!!!」
「おわ、いざ、ああぁぁぁッ!!!」
「あ」



 顔を上げた臨也は勢いのまま静雄に抱きついた。不幸にも、突然のことにバランスを崩した静雄は、持っていたアイスクリームを取り落としてしまったのだ。ゆっくりと降下していくチョコレート色のそれを、涙目で見つめる。衝動的に抱きついた臨也だったが、涙で滲む静雄の視線を追ってさっと顔色を変えた。ぎぎぎ、と油の足りない機械のようなぎこちない動きで上を見上げる。



「し…シズ、ちゃん?」
「…………い、」
「い?」






「いぃぃざぁぁやぁぁァァ!!!!」






 怒号が上がる。それに続いて上がったものは、静雄を知る者なら既にお馴染みとなった白い巨体。まばらな通行人たちが、またか、と一言呟いて、我先にと通りを駆け抜けていく。彼らもとばっちりはゴメンなのだ。



「ごめんってシズちゃん悪気はなかっt」
「ぶっ殺す、絶対殺す!!!」



 完全にキレてしまった静雄に臨也の言葉は届いていなかった。ぽかんとする帝人たちを他所に60階通りを東へと上っていく二人は、やがて人ごみに紛れ、いつしか静雄の雄叫びも聞こえなくなっていた。
 彼らが去った方向をしばらく眺めていた帝人は、あの惚気嘘じゃなかったんだ、とそんなことを思う。横を見れば、未だに通りの向こう側を見て呆気に取られた顔をしている正臣がいた。手元のアイスクリームが溶けかけ人差し指の上を伝っていくのを見た帝人は、正臣の手首を取るとぺろりと舌で掬い上げた。



「みみみみみかどなにして、」



 自分の指を伝う舌の感覚に自我を取り戻した正臣が真っ赤な顔で何か言おうとしたが、にっこりと微笑んだ帝人を見ると、開いた口を力なく開閉するしかなかった。帝人はもう一度振り返ると、騒がしい二人が消えていった方角の夕焼けを仰ぎ見て幸せそうに目を細める。



「行こうか」
「え、あ、あぁ」





 くすんだ青色の制服を一度払うと、二人は池袋駅の方へと足を進めたのだった。








 その日のうちにもう一度アイスクリーム店を訪れたバーテン服の男が持ち帰り用のアイスクリームを両手で抱えきれないほど買い込みそれを黒いコートの男に全て持たせて手ぶらで店を後にしたという逸話を、駅前のロータリーを歩く二人が知ることはなかった。





















「…………」
「シズちゃんのこんな顔見れるんなら、アイスクリームなんて安いもんだよねぇ」
「いつまで居座るつもりだノミ蟲」





















惚気話は自宅でどうぞ





100625

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臨静&帝正で惚気話。
とにかく池袋の金髪フェアリー二人が仲良いとたぎるので二人してアイスクリーム店に赴いてもらいました。臨也さんはたぶん帝人ぐらいしか惚気られる相手がいないんじゃないでしょうかね。というか、これじゃあ帝人が臨也に負けないぐらいの恋人バカですね(笑)恋は盲目!



>>スピカさん
り、リクエストは惚気話とのことでしたが…これは惚気きれているのでしょうか。もっと惚気させるつもりが何も思い浮かばずすみませんすみません。お持ち帰り自由ですので煮るなり焼くなりお好きなように!リクエストありがとうございました!









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