フラジオレット | ナノ




※臨→静←六+トムさん

















 ガッシャーン。



 天下の往来、池袋の昼下がり。この街ではもはやお馴染みとなった破壊音。ガラスの割れる、金属のひしゃげる鈍い音。そんな都会の喧騒のど真ん中に位置するのはやはりあの二人だろう、誰もがそう思っていた。しかし、元気よくメインストリートを全力疾走する影は何故か二つ、平行移動している。次第に近づいてくるのは黒いコートの男――折原臨也と、ストローハットの青年――六条千景だった。



「あーあ、せっかく俺とシズちゃんのあまーい追いかけっこタイムだったのに」
「あまーく、はねぇだろ。静雄怒ってるぜ」
「うるさいなぁ、君だって追いかけられてるじゃないか。それとシズちゃんのこと呼び捨てにしないでくれる?恋人でもないのに」
「アンタの恋人でもないからいいだろ」



 そんなやり取りを繰り広げる二人は、猛スピードで逃げているにもかかわらず息ひとつ途切れていない。若いおかげかそれとも底なしの体力を秘めた特殊な人間なのか、何にせよ一般的な群集からはみ出した彼らはさらに頭ひとつ"一般"から飛び出したバーテン服の男――平和島静雄に追われていた。



「待ちやがれテメェらぁぁぁァァ!!!」



 ひょい、急に直進を止め横っ飛びに数歩ステップを踏むのは黒い男。直後臨也の隣に着地する哀れな自販機。走る彼らに置いて行かれるつぶれた自販機を横目で追いながら、ストローハットの彼、千景は引き離したはずのバーテンダーがもうすぐそこに迫っているのを確認していた。


 どんな脚力をしてるんだあの男、怪力だけじゃなく100メートル走までも大魔神級ってか?



「……しょうがねぇな、」



 このまま永遠に逃げ切ることは不可能だ、そう判断した千景は左のつま先に力を入れ急旋回した。向き直れば想像以上のスピードで迫る鬼神のような顔をした静雄に一瞬ひるんだが、千景は冷や汗をかきながら逃げ出すかかとを押さえ込む。



「…いい度胸だ、安心しろ一発で沈めてやるからよぉぉ!!!」



 完全に血が上った頭で力任せに拳を振りかざす。信じられない速度で迫るそれは千景の顔面を軽く吹き飛ばすかと思われた。



 するり、拳の軌道が変わる。千景は身体を半回転させるとすばやい動きで静雄の背後に回る。一瞬だけ冷静になった静雄の頭が背中からの圧力に倒れる瞬間感じたのは、自分の腕に残る冷たい感覚と視界を外れていく兜割りの切っ先だった。



 ドサリ。
 速度の割にはやわらかくアスファルトに叩きつけられた静雄はその表情をゆがめた。千景は懐から取り出した兜割りで静雄の一撃を受け流すと、その勢いをそのままに自分の膝で静雄の背中を押し、そのまま倒れこんだ静雄の腕を後ろ手に捻り上げてマウントポジションを取っていた。捻られた腕を膝で挟みこまれ、関節技を決められてしまえばいくらあの平和島静雄といえども為す術はない。



「っく、そ放せ!」
「あんま怒んなよ、静雄」
「あんなことされりゃ誰だって怒るだろうが!」



 自分の下で相変わらず敵意むき出しでうなる静雄に、千景は思わず苦笑した。ふと、黒い影が頭上に落ちる。



「キスされただけで真っ赤になるなんて、シズちゃんって案外ウブなんだねぇ」
「い、っざやぁぁァァ!!」



 気付けば、今までとっくに逃げ出したものだと思っていた臨也がひょっこり現れて静雄の神経を逆なでしていた。楽しそうに見下げる笑顔を見て静雄は数回身じろぎしたが、それは千景の身体に拒まれてしまう。その事実にさらに苦い顔をして、静雄は唯一自由な右足を地面に叩き付けていた。



「怒ることねぇだろ?」



 表情は相変わらず苦笑いのまま、だが優しい声音で――彼が普段女性に向けるような甘ったるいそれで――千景は静雄の耳元に顔を寄せながら言った。



「別にふざけてキスしたわけじゃねぇんだから」
「っ、」



 至近距離で囁かれる言葉に、静雄の身体がびくりと跳ねる。顔が近づいたことで、先ほど急に二人の男にキスをされたことがフラッシュバックのように思い出され、顔面は紅潮する。その様子を見た臨也は不機嫌を顔に貼り付けると、おもむろに右ポケットに自身の手を突っ込んだ。内部の折りたたみ式のナイフを握り締め、文句を言おうと声を上げる。






「ちょっと、ハタチ前で死にたいの…」
「はいはい、そこまでな」






 上げられた声は遮られていた。そして、新たな第三者の声がすぐ傍から降ってくる。臨也が顔を上げれば、猫のように襟首を掴まれ引き上げられた千景が驚きの表情でその第三者を見つめていた。それは開放をきっかけに振り返った静雄も同じだった。






「……トムさん、」






 驚きと安堵と、その他尊敬やら戸惑いやら複雑に絡んだ声をあげ、静雄は上司である田中トムを見つめた。トムは千景を脇に下ろすと、小さく溜息をついて空いた右手を差し出す。



「あんまり遅ぇから迎えに来たべ」
「あ、す、すんません」



 反射的にその手のひらを握れば力強く引き上げられる。相変わらず呆け顔の三人を他所に時計を見やると、トムは静雄の肩を叩き「ほれ、仕事行くぞ」と言って歩き出してしまった。スタスタと遠ざかる背中にハッとした静雄は「待ってくださいよ、トムさん」と慌てて後を追いかける。その間中も、臨也と千景は呆気に取られたように一連の出来事を見つめていた。もちろん、視線は静雄に釘付けなわけだが。



 完全に見えなくなってしまった二人の影に、取り残された二人の影。どちらかといえば寂しく道路上にたたずんでいる方の二人の影は、誰に向けたわけでもない独り言を呟いていた。



「……俺、あんなきらきらした顔の静雄見たことねぇよ」
「……相変わらず全部掻っ攫ってくれる人だ」






 ポツリ、二人なのになぜか一人取り残されたような寂しさを感じながら、二つの影はいつまでも立ち尽くしていた。






















「あー、余計なことしたわー」
「え、」
「お前らの痴話喧嘩に俺を巻き込まねぇでくれると助かるんだがなぁ…」
「…すんません」



(でもそれはトムさんがかっこよすぎるからいけないんだとおもいます)




















でもそれはry





100606

……………………
意外にも初のろっちーでした。ろちドタも六静も大好物なのに…あれ?相変わらずトムさんかっこよすぎてあああああ状態なのでオチはノンケで保護者なトムさんでした(笑)


>>はっちゃん
結局トムさんが全部持ってってくれましたあれなんか臨也要素薄いなすみません。そしてろっちーが偽者ですあわわ…!偉大なる第一リクエスト者なはっちゃんに捧げます。煮るなり焼くなりお好きなように(笑)
リクエストありがとうございました!










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