フラジオレット | ナノ





※王様ゲームその後
※臨静
※えろ・・・くはないですが序盤注意























「ぁ、い、ざやぁ、もう、」
「"臨也"じゃないでしょ?ほら、ちゃんと教えた通り言って。じゃないとイかせてあげないから」
「うぁっ!・・・っ、頼むから・・・ご、主人、さま、」
「んー、60点。でもまあいいや」
「ひぁ、ぁっ!!」








「っていうのをやってみたかっただけだよ」
「殺す」



 コンクリートが人の手によって崩れるという奇妙な音を耳にしながら、臨也は白昼の往来で恥ずかしげも無くそんな妄想を語って見せた。音を立てているのは人間である静雄の手によって引き抜かれたガードレールや放り投げられた自動販売機達であり、それ等を鼻先数センチでひらりひらりとかわしながら、臨也は上機嫌にその足を路地の向こうへと進める。



「ちなみに減点理由は『頼む』が敬語になってないのと『イかせてくださいご主人様』がきちんと言えなかったからだよ」
「テメェの妄想なんざ聞いてねぇ!!」
「だからぁ、そんな妄想を現実にしてみようよっていう提案なんだけど」



 ハナシ聞いてよーシズちゃん、とやけに間延びした声で喋る臨也に静雄は一層の苛立ちを感じていた。
 寂れて廃ビルに近い黒ずんだコンクリートの壁を左に曲がって、静雄がついてきているのを感じながら臨也は壁際に放置されたゴミ箱を上り、さらにむき出しの排気ダクトに手をかけ逆上がりの要領で二階と思われる窓枠に着地する。学生時代に会得したパルクール技術は、足場だらけの壁を垂直に走るのにとてもよく役立っていた。余裕の表情のまま屋上の柵に手をかけ、ちら、と下方を見やれば、同じような要領で静雄が徐々に上へと上ってきているのが見える。



「・・・相変わらず力技だな」



 足をかけたダクトがヘコみ、掴んだ窓枠の金具がひしゃげる。視界に臨也がいるというそれだけで力がセーブできていないのか、壁を駆け上がる静雄の動きはなんとも荒っぽかった。
 スッ、と、臨也が覗いていた顔を引っ込めた。



「いーざーやぁぁあ!!」
「はーい、そこまで」



 静雄がビルの屋上の淵に手をかけ思い切りその身体を引き上げると同時に、青空の向こうからどこまでも澄み渡る陽気な声が聞こえてきた。



「あ゛?」



 見上げた先の臨也は、貫ける晴天に負けないほど好青年の笑みを浮かべていた。
 彼の伸ばされた腕を辿ると、静雄の太ももからは一本の注射器が生えている。





「ちょっと大人しくしててね」



 俺の妄想のために。





 そう言うと、臨也は静雄の腕を掴んで、力いっぱい屋上の床へと引き上げた。乱暴に扱われた静雄の身体は、一度だけ打ち放しのコンクリートに跳ねる。静雄は自分の全身が引きつっていくのを感じた。



「て、めぇ、今度は何盛りやがった!!」
「いつもおんなじ薬使って耐性でもついたら困るからね。今日は痺れるヤツにしたよ」



 指先を動かそうと懸命に脳が指令を出しているはずなのに、その都度全身の筋肉が無理矢理逆方向に引っ張られるような感覚が襲う。いつもの筋弛緩剤なら力すら入らないから、どうやら臨也は真実を告げているようだった。
 静雄は数回痙攣して、やっと動くことを諦めたのだろう、彼は深い息を吐いて視線で臨也を威嚇していた。そんな彼の姿を見ようが見まいが、きっと臨也は行動を変える気など無かったのだろう。臨也は床に転がる静雄におもむろに近づくと、ひょい、という効果音が付きそうなほど容易く彼の身体を担ぎ上げた。



「シズちゃん重いよ」
「っ、だったら降ろしやがれ!」
「・・・シズちゃんがあっさり言うことを聞いてくれる薬とかないのかなぁ」



 そんな悪態を吐きながら、臨也はその細腕で静雄の身体を肩に担いで階段を下りて行く。
 担がれながら、静雄は驚愕していた。正直、自分より10cm以上背の低い、しかもかなり細身の臨也が、自分を担いで池袋の中心街を人目も気にせず歩いていくなどとは思わなかったからだ。



 それは、なんだか、なんとも言えぬ、不思議な感覚だった。
 まるで、居もしない、会ったこともない優しい恋人に背負われているような、そんな。





「・・・いいかげん、降ろせ。注目の的だぞ」
「いいね。『シズちゃんは俺の物だ』って池袋中に知らせて回ろうか」
「死ねノミ蟲」
「こわーい」



 ちらりと盗み見た静雄の顔は、確かに少々恐ろしいものだった。
 慣れない薬を使ったせいか、静雄は表情筋まで引きつっていた。口角がつりあがり、薄く開いた瞳から褐色の瞳が覗いている。



 傍から見ればそれは、池袋の喧嘩人形がその宿敵の肩に背負われて"微笑んでいる"様だったのだ。





「とりあえず俺の家に行って、それから王様ゲームの続きでもしようか」
「誰が手前と二人でするか」
「えー、もっと面白い命令用意してたのに」
「殺したくなるの間違いだろ」
「そういえばシズちゃん結局『全裸で俺の名前呼びながらオナニーする』っていう命令聞いてくれなかったよね」
「マジで門田に感謝する」
「うーん、なんかドタチンには逆らえないんだよねぇ」
「(・・・今度から門田に助けを求めよう)」
「なんか・・・母親に怒られてる感じ?」
「・・・・・・泣くぞ、アイツ」
「そうだ、じゃあ、その命令は俺の家に帰ってからって事で」
「捻り潰されたいか?」
「あは、まだ不能にはなりたくないなぁ」









 事情を知らない通行人に見守られながら、俗ながらどこか穏やかな二人の会話は新宿まで続いたという。
































Who's gonna be a king?

(王様の背中の乗り心地はいかがですか、お姫様?)







100422

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王様ゲームその後臨静編。「やっと書けたー!」って喜んでいたのに見直してみたら別に番外編で書く必要も無かったかなぁという内容に(苦笑)

存外たくましい臨也を見てどきどき(?)するシズちゃんが書けたので満足です^^










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