フラジオレット | ナノ



「やったぁー!ついに俺の時代が来たっす!!」
「あーあ、ハズレ」
「あぁ・・・セルティ、ちょっと湿布とってくれる?痛み加減からして腫れそうだから」
『!!すぐ持ってくる!』
「う、遊馬崎」
「・・・よりによってお前か」



 ハズレ、と言いながらもどこか楽しそうな顔をしているのは臨也、その横で右の頬を押さえながらセルティが寝室へと走っていくのを幸せそうな顔で眺めているのが新羅、赤い印の付いた竹串を掲げて狂喜乱舞しているのが遊馬崎。そして、結果に苦い顔をしたのは静雄と門田だった。

 遊馬崎の命令は性質が悪かった。前例を挙げると、三角の猫耳がついたカチューシャとしっぽを着け「にゃあ」と言えと強要されたり(被害者・静雄)、背後のリュックからおもむろに小説を選ばされ手に取ってしまった官能小説を朗読させられたり(被害者・門田)と、大概が対象になった者の赤面を余儀なくするなんとも恥ずかしいものばかりだったのだ。

 内心冷や汗をかきながら俯いていると、ついに遊馬崎が恐怖の命令を下した。



「じゃぁ、一番と三番の方にはこいつを着てもらいましょう!」



 じゃーん、と自らの口で効果音をつけながら取り出したのは、薄いピンク色の服と、新羅が今も着ているような真っ白いコート。どこから出したんだ。



「一番がナースで三番はお医者様っすよ!!」



 ハイテンションのまま遊馬崎が言い放つと、げ、と小さな声がひとつだけ上がった。



「俺だ・・・三番」
『私が一番だ』



 声と共にうなだれたのは門田、湿布と共にPDAと竹串を掲げて見せているのはセルティだった。
 ぱぁ、と顔色を明るくした遊馬崎から衣装を受け取ると、セルティは黒い影に包まれた。一瞬にしてセルティの全身を包み込んだそれに遊馬崎は興奮の声を上げる。すごいっす、やっぱりCGかなんかっすよ、とうるさい遊馬崎を横目に見ながら、門田は白衣に袖を通し、用意されていた眼鏡をかけた。何で眼鏡、とは思ったものの、突っ込みを入れるのももはや面倒だった。
 さぁ、と黒い影が退いて行く。



「おぉ、さすが「セルティィィ!!」



 声を上げようとした遊馬崎を乗り越えたのは新羅だった。・・・文字通り、新羅は遊馬崎を"乗り越えた"のだ。



「あぁ君はなんて美しいんだ!!その短いスカートから見える足!すらりと伸びる腕!!たとえ首が無くたって君は明眸皓歯、僕の唯一無二のぐはぁっ!!」
『抱きつくな!!』



 ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す二人を他所に、遊馬崎は未だフローリングの床に突っ伏していた。理不尽に踏み潰された背中が痛む。あぁ、どうしてこんな役回りなんすか俺・・・。
 す、とふいに身体が持ち上がる。力を込めた訳でもないのに重力に反して後ろに引き上げられるその先を見ると、門田が呆れたような顔をして立っていた。



「ったく・・・満足か?」



 眼鏡の奥で少し照れくさそうに笑う瞳に見つめられ、遊馬崎は自分の胸中で何かが"きゅん"という音を立てるのを聞いた。



「ホントは門田さんのナースが見たかったんすけど・・・コレはコレで目の保養っすね」



 にやり、猫のように歪ませた口元にはそんな効果音が似合う。白衣を引かれ、更におもむろにニット帽を取り去られ、ゆっくりと近づいてくる遊馬崎の顔にしどろもどろになってしまう。

 しかし、すぐ脇から「熱いねぇ」と冷やかすような臨也の声が聞こえて、門田は反射的に両手を出して遊馬崎の顔を受け止めた。ぐい、と押し返すと、口を尖らせた遊馬崎が不満そうな声を上げるのがわかったが、門田は自身の顔面に集まる熱を持て余していてそれ所ではなかった。



「じゃあ、俺もシズちゃんといちゃいちゃしたいから次行こっか」
「待て、意味がわからねぇ」
「はーい、それでは皆さん一本ずつ」



 静雄の制止を華麗にスルーして、臨也は束になった竹串を差し出した。毎度お馴染みのその光景のはずなのに、白く細い指の持ち主が浮かべる不穏な笑みのせいで、どこかいつもとは違う緊張が走る。それでも場の空気に流されるように、各自が木製のそれに指を添えた。





「では。

せーの、」





 臨也のその落ち着き払った声は奇妙に木霊し、そして消えた。



























Who’s gonne be a king?

(ふふ、『計算通り』ってヤツ?)



100403

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臨也くんがしゃしゃり出て来ましたね(笑)なんだかこのままいくと彼が静雄をお持ち帰りしてしまいそうなんですが・・・大丈夫なのだろうか。いや、私の脳内が。










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