フラジオレット | ナノ




 キュイキュイ



 事務所内には奇妙な音が鳴り響いていた。出会い系サイトの取り立て屋が駐在する簡素な部屋には、妙に不釣り合いなファンシーな音。トムはその発信源をちらりと見やった。



 キュイキュイ



 トムはコーヒーをすすり、本日何度目かのため息を押さえる。ただ、本人にとってそのため息は目前の人物に対する呆れや失望から来るソレではなく、むしろ好印象故に吐き出される自然なものだった。



 キュイキュイ



「…静雄」
「何すか?」
「うまいか?」
「はい」
「…そっか」



 素直で結構。

 そう小さく呟いて、トムは静雄の金髪に手を伸ばした。触れると存外柔らかいソレに指を絡ませ、ゆっくりと静雄の頭を撫でる。静雄は少しくすぐったそうな顔をしながらシェーキのストローに口を付けていた。



 あぁ、かわいい。



 トムは心底幸せそうな優しい笑みを浮かべながら、十分堪能した、と上目遣いでこちらを見上げている静雄の金髪から手を離した。
 すると、静雄は不思議そうな顔をした。それからハッとしたように肩をふるわせて、テーブルとにらめっこを始める。



「静雄?」



 少し眉尻を下げて、トムが覗き込む。机上に興味を引くようなものはない、ただ取り立ての予定書やら、こまごまとした書類が散らばっているだけだ。
 急に俯いてしまった理由がわからない。静雄は、シェーキの容器の上で両の人差し指をたどたどしく交差させていた。

 やがて、かすれた声が落ちる。





「その・・・もう少しだけ、そのまま、」



なでてほしいっていうか、その。





 最後はもはや聞き取れないほどのか細い声であったにもかかわらず、トムはその一言一句を聞き逃しはしなかった。
 俯いた金色の隙間から見える耳は真っ赤に染まっている。きゅっと結ばれた口元は微かに震えている。
 面食らってしまったトムは衝動的に机を乗り越えると、俯く恋人の身体を強く抱きしめた。




「トムさ、」
「あぁもう何お前、可愛すぎ」




 殺す気か、と耳元で囁く優しい上司に、静雄はまた赤面して、抱きしめられたそのぬくもりの中に小さくまどろむのだった。






















(そんなの、お互い様だ)

























愛しさが君を殺す





100331

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リクエストのあった甘々トム静。私的にはこれでも砂吐く甘さだと思ってます(笑)甘々好きなんだけどなぁ・・・書くのは苦手なのかも。精進せねば。

しかし、トム静のシズデレは非常においしい。










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