フラジオレット | ナノ



「やった!僕が王様!!」
『またか!』
「いやいやいや、運がいいっすねぇ」
「何かの陰謀を感じるなぁ」
「ところで、どうして遊馬崎がいるんだ?」
「・・・・・・」



 バキ。

 一本の竹串が折れる音がした。哀れ静雄の指先で粉砕され、ぱらぱらとその残骸をカーペットの上に撒き散らす。そこには既にいくらかの竹の破片が散らばっていた。それらを気にすることもなく、新羅は自身の背後から新たな竹串を一本取り出した。左手に赤いインクが付着した一本を携えながら。



「じゃあー・・・二番の人が王様にコーヒーを入れる!」



 バキ。

 デジャヴのような音がして、"二番"と書かれた竹串が四つ折りになる。その様子にオロオロしながら、セルティがなんとか静雄をなだめようと控えめにその肩に手を置いた。



『し、静雄・・・その、すまない』
「・・・いい、運び屋のせいじゃねぇ」



 その手をやんわりと退けると、静雄は「どこにある」と一言残して、セルティと共にキッチンの奥へと消えてしまった。残された新羅、臨也、門田、それに遊馬崎は顔を見合わせて、各々好き勝手な反応を示していた。



「静雄くんだったなんて・・・ひやひやしたよ」
「あっははは!従順なシズちゃんとか、最っ高!!・・・俺にも跪いてくれないかなぁ」
「いーざーやー、聞こえたぞー?」



 早々に帰ってきた静雄は、片手に黒いマグカップを抱えていた。無遠慮に音を立てながら歩く静雄の後ろを、セルティが慌てたように小走りで追ってきている。静雄は新羅の目の前まで来ると、彼の横にあったサイドテーブルの上に、ガン、と派手な音を立ててマグカップを置いた。カップもテーブルも壊れていないということは、静雄にしては相当な手加減をしているのだろう。その分堪えられなかった怒りが、彼の額に青筋となって浮かび上がっているのが見える。
 新羅は苦笑いしていた。



「・・・だから、どうして遊馬崎がいるんだ」
「門田京平有るところ遊馬崎ウォーカー有りっすよ!!」
「答えになってねぇだろ」



 そんな彼等を横目に、二人は二人で勝手なことを話していた。同窓生である門田ならまだしも、遊馬崎が新羅の家に上がりこんでいる事情が良くわからない。そもそもどうしてこんなことになっているのか、門田は未だ良く把握できていなかった。


 どうして、こんなメンツで仲良く輪になって王様ゲームなんかをやっているのか。



「ぶはっ!!」
「うわっ、何やってんの新羅シズちゃんが入れてくれた貴重なコーヒーを!!」
「だって、げほっ、コレ苦っ!!」
『・・・すまない、新羅』



 セルティが差し出すPDAのフォントは小さくなっており、それが彼女の心の萎縮を表していた。

 苦いのは新羅の味覚が正常なことを示している。それもそのはず、なんせ静雄はインスタントコーヒーの粉と水の割合を一対一で作っていたのだった。
新羅がむせ返る様子を、静雄は満足そうな笑みを浮かべて眺めていた。するとおもむろに、臨也がその黒いマグカップに手を伸ばす。



「新羅が飲まないなら、俺が飲むよ」
「えっ、臨也、それ冗談じゃなく苦いって、」



 新羅が止める暇もなく、臨也は喉を鳴らしてカップの中身を飲み下していく。他の三人が信じられないという顔――もっとも、一人には首が無いのだが――をしながら見つめる中、臨也は一滴も余すことなく、あのどす黒いコーヒーを飲み干した。しかも、満足そうな顔をして、



「おいしかったよ、シズちゃん」



 等とほざくものだから、静雄は思わずソファを持ち上げて殴りかかろうとした。しかしそれは浮きかけたソファの上にいた門田に咎められ、苦い顔をしたまま静雄はどうにかしてその怒りを腹内に収める。心底気持ち悪い男だ、ホント。



「それじゃあ、お次、行ってみましょうか!」



 す、と束になった竹串を差し出したのは、門田と同じくソファに座っていた遊馬崎だった。全員が顔を見合わせて、一瞬の沈黙が流れた後、これまた全員が一斉に竹串へと手を伸ばす。各々が一本ずつ選んだのを見ると、遊馬崎はその鋭い目を少し開いて笑った。




「それでは。

せーのっ!」






 沈黙。

 そして、落胆の声が響いた。
























Who's gonna be a king?

(俺だといいんすけどねぇ)






100328

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唐突にはじめてみました王様ゲーム。短編のつもりだったんですが終わりが見えない連載になりました^^

王様ゲームをやり始めたのはたぶん新羅です。何故みんなが付き合ってあげているのかは本当に謎です。私にもわからない。特に静雄(笑)










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