彼、平和島静雄は、存外甘いものが好物らしい。
禁煙スペースでは飴を舐めているし、ファーストフード店でシェーキをキュイキュイ鳴らしながら飲んでいるのも目撃されている。もっとも、本人の口から聞いたわけではなく、それ等はただの"情報"として俺の耳に飛び込んで来ていたに過ぎなかった。
だから今、この現状を目の当たりにして、俺は少々愕然としている。
「・・・気持ち悪く、ならないの?」
「?別に」
目の前のシズちゃんは、銀のボウルいっぱいに入った生クリームを同じような銀のスプーンで黙々とすくっては食べていた。いくら生クリームが嫌いじゃない俺だって、あの量を見れば胸焼けもする。
俺はこみ上げる不快感を手で口を覆うことで押さえながら、幸せそうな顔でソファに座り込む彼の横に腰掛ける。
「甘いもの好きだったんだね」
「嫌いじゃ、ねぇな」
「・・・ふぅん」
大事そうに抱えたボウルを覗き込めば、中には薄く茶色付いた固形に近い柔らかいそれ。作る過程で砂糖とココアを混ぜ合わせたその甘ったるい物体は、既にシズちゃんの手で半分以上を平らげられていた。残念ながらお菓子作りとは無縁な俺はハンドミキサーなんて物は持っていない。・・・言うまでも無く、シズちゃんが食べている"それ"は俺が作った。泡立て器一本で。
そんな俺の苦労も露知らず、(まぁ、知らなくて良いんだけど、)彼はスプーンを口に運ぶ動きを止めることはなかった。こちらを見向きもしないで、うれしそうな顔で。
コレはちょっと、つまらない。
「ねぇ、シズちゃん」
「あ?」
おもむろにボウルの中から生クリームを一すくいすると、俺はそれを口に運んだ。
甘い。
その感想に自分で眉をしかめながら、俺はもう一すくい。今度はシズちゃんの口元に。
「っ、何、しやがる」
「せっかく作ってあげたんだからさ」
俺もお礼くらい欲しいな、なーんて。
にやり、と薄く開いた唇で笑うと、呆けているシズちゃんの肩を押してソファに沈めた。わ、とか気の抜けた声を上げながら、それでもボウルの中身をこぼさないように彼はゆっくりとソファに倒れる。そんなシズちゃんからボウルを奪い上げると、空いた片手で器用に彼の胸元を肌蹴させる。ボウルをサイドテーブルに置いて一すくい、今度は彼の首筋へ。冷たい感触にびく、とその肩が跳ねるのを見て、俺はたまらなく興奮してしまったらしい。
性急に彼のボタンを全て外すと、俺はそのきれいな首筋へと舌を這わせた。甘いそれを一舐めして、もう一笑い。
「覚悟してね?」
ほのかに香るココアが、いっそう俺を欲情させた。
ボウル一杯の生クリーム
(と君が今夜のメインディッシュ!)
100326
……………………
シズちゃんが甘いもの好きだと萌えるというそれだけの話。だって・・・トモコレの静雄さんの好物がみんなデザートなんですもの・・・(笑)