フラジオレット | ナノ



「かーどったさんっ!」
「わ、」



 ワゴンの外でぼーっとしていると、急に悪意のないタックルをかまされた。背後からの急な衝撃に一歩よろけて、それでも何とか踏み止まる。声でなんとなく予想はついていたから、ため息を吐いて振り返ると、自身の背中の上には満面の笑みをしている遊馬崎がいた。



「…危ないだろ」



 門田がそう言うと、すみません、と悪びれない笑顔のまま地面に降りる彼。それから待ちきれない、とでも言わんばかりに、門田が用件を聞こうと口を開く前に遊馬崎は声を上げた。




「門田さん!今日の占い見ました!?」



 その迫力に気圧されて、門田は一瞬たじろいだ。またか、と思ったのも同時だった。



「…見て、ないが」



 近頃、遊馬崎は門田に同じような質問を続けている。会う度、開口一番に問う事は”今朝の占い”。門田の習慣では、朝起き掛けにテレビをつける事はあっても、それは適当な一面記事を片耳で聞くだけに終わり、大抵はその後放送される占いやらその他の情報に注意を向ける時間はなかった。別に興味がない、信じてない、とかそんな理由ではなく、純粋に占いに割く時間を持ち合わせていないだけだった。むしろ、どちらかと問われれば、門田は占いを信じている。
 門田の答えを聞くなり、遊馬崎はさらにその顔色を明るくした。反面、口調はやんわりと門田を咎める。



「いやいやいや、ダメっすよ門田さんー。いくら占いと言えど、今日のあなたの運勢を左右するかもしれない大事な助言が詰まってるんすよ!」
「そう、か?」
「そうっすよー。でも、今日も俺が門田さんの分まで見ときましたから!」



 安心してください!と元気に言い放つ遊馬崎。どうして彼はこんなにも楽しそうなのか。門田は一通りの思考をめぐらせたが、わかりそうになかったので早々にギブアップして視線を戻す。ちょうど遊馬崎が続きを喋りだした頃だった。



「今日の門田さんのラッキーポイントは…『水色の服を着た人と食事に行く』っす!」



 ずい、と人差し指を突き出して遊馬崎は迫る。はぁ、と少々情けのない声を出して門田は答えた。



「つまり、門田さんは水色の服を着ているこの俺と一緒に食事をすれば、今日一日ハッピーラッキーマテリアル☆ってことっす!」
「最後の方が良くわからなかったんだが、」



 とりあえず、遊馬崎と飯を食いに行ったらいいのか?と尋ねれば肯定の笑みが返ってくる。なるほど、それならシンプルだ。門田が納得していると、急に遊馬崎が腕を引いた。急な引力に、また少しだけよろける。手を取った遊馬崎が歩き出していたからだ。



「どこがいいっすか?一番近いのは吉野家っすけど、ちょっと行けばマックもレストラン街もありますよ?」
「マックは、今朝食べたな」
「じゃあマックはナシって事でー」



 昼間の街の賑わいに紛れ、次第に遠ざかる二人の声。傍から見れば、それは友人たちが手を取り合い昼食へと向かう、とても穏やかで微笑ましい光景だった。







 彼らの声が完全に聞こえなくなったその頃、ワゴンの中からため息と共に呟きが聞こえてきた。



「遊馬崎、まだやってたのか、アレ」
「みたいだねー」



 ため息は運転席の男のもので、相槌を打った女性は後部座で小説を読んでいた。ブックカバーのせいで内容はわからないものの、彼女が時々笑みをこぼしていることから、少なくとも彼女の興味を引く作品ではあったようだ。男はそれを横目で見ながら、ハンドルにもたれかかって二度目のため息。



「昨日は『リュックを背負ってる人と買い物』で、その前は『目付きの鋭い男とゲーセン』だろ?あからさますぎるっていうか、何で門田さん気付かねぇのか」
「ドタチン鈍いからねー」
「それにしても鈍すぎだろ…」



 呆れたような声音で話す男に、女性はまあ、でも、と言いながらキャスケットのつばを少しだけ上げる。視線は相変わらず小説に釘付けだが、先程よりも会話に集中し始めているようだった。



「こないだドタチンと話してたんだけど、脈アリ?っぽかったし、いいんじゃない?」



 私的にはボーイズでラブなのもおいしいしー、とか言う呪文が聞こえてきたので、男は聞こえなかったと自分に言い聞かせて窓の外を見る。二人が消えた方向を見ながら、駐禁取られたらキップ代は遊馬崎に請求しよう、とかそんなことを考えていた。
























『ドタチンー、占いやってるよ、見る?』
『あー…遠慮する』
『えー、でも最近いつも占いの話してるじゃん、ゆまっちと』
『そうなんだが…
この間、たまたま占いを見たから、遊馬崎に聞かれたときに「見た」って答えたんだよ。そしたら遊馬崎やけに落ち込んで…なんだかよくわからねぇんだが、それ以来、見ないことにしてる』
『んー、ゆまっちどうしたんだろうねー』
『さぁな…まぁ、あいつが楽しそうなら、その方がいいだろ』
『ドタチン、ゆまっちに甘いよねー』
『…そう、か?』
『あ、顔赤い』
『なっ、』
『いやいや、門田さんに狩沢さんじゃないっすかー!何話してるんすか?』
『!』
『あ、もっと赤くなった』




























フォーチューンは 
人任せ






100308

……………………
ゆ、遊門です…一応…。
誰得と聞かれたら間違いなく私得です。(きっぱり)

しかし、遊馬崎は性的な方向に関しては二次元で満足してそうなので(←)、ドタチンにはキス以上はしてないとかそんなだったらいい。
需要…あるの?










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