フラジオレット | ナノ





※青エク
※アマイモン戦@森後ぐらい












 ガタリと病室の扉を開けて、とにかく目の内に飛び込んだ光景に胸が詰まるのを感じた。首に包帯を巻きつけて、志摩に気付いたのか片手を上げながらかすれた声で名前を呼ぼうとする勝呂。しかしすぐに咳き込んでしまい、その見慣れた顔は布団に埋もれていってしまった。志摩はふらふらとベッドに近づくと、咳き込んでいたその頭を抱え込んだ。



「おい、志摩」



 焦った様子で勝呂が抵抗を見せた。真白な病室のベッドに片膝を乗り上げて抱きしめているだなんて、確かにマズイ。一応、そういった関係であると周囲には伏せている二人にとっては。しかし、志摩は放すことができなかった。胸のつかえのせいで、うまく息もできない。



「坊、坊は、俺より先に逝かんといてくださいね」



 ぎゅう、と隙間が埋まるほどに抱きしめた腕の中から、もはや抗議の声は聞こえてこなかった。自分の指先が僅かに震えていることを自覚しているものの、この腕の温もりは離別を惜しむ要素としては十二分で。どうにも動けないでいると、胸をどん、と控えめに叩かれ、緩めた腕の隙間から勝呂が怪訝そうな顔を覗かせた。そして大きく息を吸い込み、



「アホか」
「ひどい!」



 かすれた声で、とりあえずそう一言。ショックに声を上げる志摩の横で、勝呂はいくらか身じろぎして上手く呼吸の出来るところを見つけると、志摩の肩の下から手を回した。制服の背をぎゅ、と握りしめて、彼はこれ見よがしに溜め息をつく。



「死ぬわけないやろ、お前ら残して」



 みんな、最期まで俺が守るって決めたんやから。

 いつの間にか握りしめられた手に優しく背をなでられていて、なぁ志摩、とあやすように名前を呼ぶ低く揺れる声にどうにも感極まってしまったらしい。虫と坊のことになると涙腺が緩んでいけない、と唇を噛み締めて笑顔を作る。坊に先に逝って欲しくない、それは裏返せば自らの呼吸が止まるその最期の一瞬まで彼に傍にいて欲しい、そして残酷にも彼を置いて逝く自分を見届けてほしいという、まるで子供じみたわがままなのだろう。情けない涙目のままふふ、と笑えば、お前はほんまに煩悩まみれやなぁ、と耳元で笑う声。それに少しムッとして、



「そうなんですわー、ほんま俺煩悩まみれなんで」
「うぉっ!?」



 軽口を叩きながら、ぐ、と前方に力を込めればあっさりとベッドに沈む身体。早くも危険を察知して冷や汗を流し始めたその顔を見下ろして、にやり。






「どうせなら、一緒に煩悩にまみれてみませんか?」






 NOと言う前にシャツの中に侵入してくる手に、拒否権なんてないんだろう、と怒鳴りつけるチャンスを失って渋い顔をしながら口をつぐむ彼。結局、それこそが彼の優しさなのだと、志摩は満面の笑みのままいとしいその唇に口づけた。




















(志摩さん!あんたこないなとこで何するつもりですか!)
(…子猫さん、空気読んでもう二時間ぐらい帰ってこぉへんくてもええですやんー…)
(た、助かった…!)










わがままと煩悩





110722

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コミックスを先読みしてあらぶった。しかし京都弁難しいです…どうしても関西弁(大阪弁?)になってしまう…。三河弁ならバッチ恋なんですが。









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