※輪るピングドラム
※片思い晶馬くん
「お前ってまつげなげーよな」
するりと、僕の前髪を持ち上げながら兄貴は笑う。とてもいとおしいその視線はもちろん僕の頭上を飛び越えて、その言葉の後には決まってあの名前が付いて回るのだろう。
「陽毬に似てる」
お前の方が兄貴なのになぁ、と上機嫌に笑う横で僕が苦虫を噛み潰したような顔をしたことを兄貴は知らない。女性の気持ちには聡いくせに身内の胸中は推し量れないときたものだ。これだから、と僕は思わせぶりな指先を振り払って、夕飯の準備に取りかかるため重い腰を上げた。
「晩飯、オムライスにしろよ」
何も言わずに立ち上がった僕を不思議に思うこともなく、兄貴は夕飯のメニューに注文をつけてさえくる。もちろん接尾語は陽毬、「陽毬が食べたがってた」。僕は噛みすぎて痛みの走る唇から溜め息を零すと、くるりと振り返っていつもと変わらない呆れ顔を装備した。いい加減、いとしい妹に嫉妬するのも、馬鹿らしくなってきた頃だ。
「もう夕飯の買い物済ませちゃったから」
それにオムライスは昨日作っただろ、と言えば口を尖らせた兄貴が「ケチ」と言って僕の枕に顔を埋めるのが見えた。今更布団を使われたぐらいで興奮なんてしないけど、夜中に得意のネガティブ病が再発したら眠れなくなるんだろうな、と馬鹿な事を考えながら俺は手を洗う。どれだけ洗い流そうともこの両手からこぼれてしまう想いが尽きることなんて無いのだから、手っ取り早く僕は手近なものに詰め込んでしまうことにしたのだった。
「いただきます」
行儀よく、しかし元気よく陽毬がそう言うのに少し遅れて僕らが同じ言葉を繰り返す。箸と食器がぶつかる乾いた音が数回してから急に、ふふふ、と陽毬は嬉しそうに笑った。
「今日は冠ちゃんの好きなものばっかりだね」
そう言って手製のハンバーグをぱくり、また嬉しそうな顔。それを聞いて兄貴が訝しげな顔をしながらフルーツのサラダをぱくり。
「そうかぁ?」
「そうだよ。ハンバーグもフルーツサラダもトマトの付け合わせも、みーんなちっちゃい頃から冠ちゃんが大好きなものばっか」
よかったね、冠ちゃん、と陽毬が笑うと、兄貴は満更でもなさそうな顔をして手元の白米を平らげていく。そうかなぁ、と小さくこぼしながらも、もうほとんど空になったプレートの前では照れ隠し以外のなにものにも見えないことに兄貴は気付かない。そしてそんな兄貴に僕がいとしさを感じていることにも、兄貴は気付かない。
ありふれた日常のように流れていく穏やかな食卓の風景のなかで、私ハンバーグ好きだよ、と言う陽毬に、じゃあ俺もハンバーグ好きだ、と答える兄貴が一番きれいな笑顔をしているのだから、僕は溜め息をつくしか無いのだけれど。
(壊したい、でも、このままでいたい)
いとしき日常
110720
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ジャイアn冠葉兄ちゃんがかわいくてあらぶった。wiki見てさらにあらぶった。一生妹に勝てない晶馬くん。