フラジオレット | ナノ





※来神門静未満











 ざわり、と頭上の木々が揺れ隙間からこぼれた僅かな日差しが瞼を焼く。閉じた目の裏側が明るく照らされ、静雄は少しの身じろぎの後に目を覚ました。ひやりとした地面から身体を起こせば蒸し暑い風が頬を撫でる。夏も始まったばかりだというのに、先日の雨から急に月日を飛ばしたかのように気温が上がってしまい、ここらにもう春の陽気は見当たらない。騒がしいグラウンドでは自習になった体育の授業の時間を潰すクラスメイト達が思い思いに走り回っている。この暑いのによくやる、と静雄は溜息と同時に一人の男を視界にとらえた。



(門田、)



 学生服を脱いだ彼は白い体操着姿でボールを追いかけている。後ろになでつけた髪は幾分か崩れ、普段あまり見られないことになっていた。そもそも本を読むことが好きな門田がこういった時間に運動しているなんて珍しい。そう思いしげしげと眺めているうちに、なぜだか坂になった芝生に座るこの時間がつまらなく思えてきた。



(気づかねぇ、よな)



 静雄は手持無沙汰に携帯を取り出し、カメラ機能を起動させる。少しの距離をズームで埋めて、ちょうどゲームが小休止しているらしく立ち止まっている門田に向けて携帯を構えた。そして、汗をぬぐう彼に向け、シャッターを切る。一度暗転した画面が再度表示されて、それから静雄は短く声を漏らした。門田はこちらに目を向けて映っていたのだ。



「あ、」



 画面からグラウンドに目を向ければ、門田は何か一言二言クラスメイトに告げてゲームからグラウンドを離れようとしている。咄嗟に静雄は携帯を閉じ、ズボンのポケットにしまう。門田は目の前まで来ると「隣、いいか?」と芝生を指さして尋ねたので、静雄は狼狽えながら小さくうなずいた。



「何してたんだ?」



 携帯なんか掲げて、門田は隣に腰を下ろしながら何気ない様子でそう尋ねた。単なる暇つぶしの一環ではあったが、こうなってしまっては勝手に門田をカメラに収めたことが後ろめたく思えてきて静雄は言葉に詰まる。白状してしまえば彼は容易に笑ってくれるだろうに、なぜだか気恥ずかしくてそれができない。静雄はしどろもどろになりながら答えた。



「電波が、なくて」
「あぁ、なるほど。時々あるよな」



 明らかに挙動不審な静雄を特に気にした様子もなく門田はグラウンドに視線を戻す。静雄は胸をなでおろしながらも少し残念に思い、そしてそれを不思議に思った。思えばどうして門田を撮ろうとしたんだろうか。静雄は隣に座る横顔を眺めた。どうして、ともう一度自問しかけたとき、門田がこちらを向いた。びくり、と肩が跳ねる。



「どうした?」
「っ、なんでも、ねぇ」
「?そっか」



 暑いな、と言って門田は笑った。陽射しと木陰のコントラストの中で静雄は、あぁ、と曖昧に返事をしながら、先ほど携帯を閉じる前に保存ボタンを押さなかったことを、少し、後悔していた。

























あざやかな世界



(君を切り取ってしまいたい)



110609

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門静というよりは門←静。ドタチン強化期間なのかなんなのか近頃ドタチンばかり書いています…(笑)さわやかな夏の日が似合うドタシズが好きです。特に来神ドタシズが好きです。










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