※臨デリ死ネタのようなもの
瞼が重い。理由はわからないけれど、とにかくこの目を開け保っていることが難しい。ウィルスに侵されたのかもしれない。あるいはこの間の雨で電気系統がショートしてしまったのか。とにかく今は真昼の十二時過ぎで、完璧に統制された俺のプログラムがスリープモードに移行するのは明らかな“異常”だった。俺は目の前にいるマスターにそう、伝えようとした。だが声が出ない。おかしな話だ。
「デリック」
彼は俺の名を呼んだ。あぁ、どうやら受容器に異常はないようだ、ただそれすらも彼に伝えることはできない。彼は不安だろうか。声を発することができず、無音のまま唇を開閉させている俺が自分の話を聞いているのかどうか、とても、不確かだから。半分ほど視界が黒く染まる。
「ごめんね」
ふわりと降ってきた言葉はマスターのものだった。どうして謝るんだろうか、もしかして何も言わない俺が怒っていると思っているのだろうか。あぁ、そんなことはないのに。むしろ謝るのは俺の方だというのに。ようやく分かった、この動作不良の意味を伝えることができないことを、謝らなければならないのに。
「ねぇ、」
あぁ、ごめんな、マスター。ずっと傍にいてやるって言ったのに。あいつの代わりに、俺がずっとお前の傍らにいると、そう約束したのにな。もう、手足も動かないんだ。なんでか、瞼も重いんだ。ごめんな、マスター。だから、泣かないでくれ。
「デリック、」
どうせ最後ならと、俺は持てる全てで喉を震わせた。口ずさんだものは到底歌とは呼べない、かすれた、ひび割れた、ひどく脆い代物だったのだけれど。もう、視界は暗くて、君の顔すらも見えないから、これは自己満足なのだ、と。がたん、胸の奥が崩れる音がした。
「ごめん、な」
臨也。
それは俺が最後に振り絞った言葉だったのだけれど、うまく笑えていたかどうかは、今はもうわからなかった。
ひゅうひゅうと、呼吸の音が聞こえる。ぽたりぽたり、床に滴る汗の音も聞こえる。どちらもまるで現実味のない乾いた音だったけれど、それは間違いようもなく自身が発する醜い音達で。彼の終わりはあんなにもあっけなく美しかったのに、人はどうしてこう醜悪なのだろうと、臨也は愛する自身と人類を嘲笑する。ぎゅうとTシャツを握りしめた分だけ内臓がつぶれるような感覚がする。床に付いた手が震えている。もう、支えることはできないのだろう。臨也はその胸の手をほどき、目の前にいる、今はもう瞼を下ろした冷たい頬に触れた。
「ごめんね、デリック」
こんな俺に付き合ってくれて、ありがとう。
ずるりと、手のひらがフローリングを滑っていく感覚がした。
(あぁでも、俺は君に生きてほしかったよ)
君に捧げる終末
110505
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臨→静前提の臨デリでデリックさん最期の時。二人称が「君」とか「お前」とかごちゃごちゃなのはもう壊れかけているからということで一つ。(実は何も考えずに書いたら統一できていなかっただけという…。)
よく考えたらこどもの日だったんだからショタでも書けばよかった。