フラジオレット | ナノ









 パラリと、また一枚ページがめくられる音がして静雄は溜息をついた。もう何度目になるだろう、彼は一向に気が付かない。静雄は空になったマグカップに視線を落として、また溜息をつくのだった。


 珍しくお互いの休日が重なって門田の家を訪れてみれば、彼は新しく買った分厚い本に夢中だった。いつもの事ながら勝手にお邪魔して、出されたコーヒーにちびちびと手をつけながら横目で門田を盗み見る。今の門田はまさに本の虫、さすがにコレだけ真剣な彼を邪魔するのははばかられる、と読み終わるまで大人しくする決意をしたのは一時間前。我慢強い性質でない静雄が痺れを切らすのには充分な頃合いだった。



「、なぁ」



 くい、と背中合わせの緑衣を控えめに引っ張る。もういい加減ほったらかしの恋人をかまってくれてもいい頃だろう、そんな非難めいた視線を横目で向けながら。


 ところがいつまでたっても門田は反応を示さない。まるで先ほどまでと変わらないゆったりとした指先で本のページをめくり続けるだけで。まさか気づかなかったのか、と驚愕と苛立ちで静雄は目を見開いた。声も聞こえないほどに本の虫だ。というかおそらく、完全に忘れられている。



「っ、門田!」



 カッとなって声と手が出た。手が出た、と言っても殴ったわけではなく、いたずら心に静雄は門田のニット帽を取り去ったのだった。乱暴な手つきで帽子を奪われた門田の髪は少し崩れて、引っ張られるようにして彼の頭部がこちらを向く。それからさらにその頭は傾いて、ついには茶色い瞳がお目見えする。静雄はしてやったり顔でくるくると手中のニット帽を回していた。俺をほったらかしにしておいたお前が悪いんだ、このニット帽は没収な。そう、言ってやろうとして。



「静雄、」



 低い声で、名前を呼ばれた。それだけで罪悪感からびくりと肩を震わせて、帽子をつかむ右手に力がこもる。パタンと本が閉じられ、ハードカバーの表紙が日の光に反射してきらめいた。ちらつく光に目を奪われているうちに門田との距離は数センチ。



「んっ、」



 重なる唇にめまいを覚えて目を瞑る。望んでいなかった、と言えば嘘になるのだが、あまりの急展開に静雄の脳は追いつくことができず。そのうちに口内に侵入して好き勝手に動き回る舌に全身から力が抜けていく。



「ぁ、」



 流されそうだ、と思った矢先に門田の顔が離れていった。去り際に力の抜けた静雄の指先からニット帽を奪い返して、何事もなかったかのような動作でそれをかぶりなおす。すとんと元の場所に腰を下ろして、門田はハードカバーの表紙をめくった。そうしてほんの数分前と同じ動作を再開し始めたのだ。



「なっ、な、ななな…!」



 静雄は、というと、ほんの数分前とは打って変わって、真赤な顔をしてわなわなとふるえていた。



「…っ、門田!」
「え、うおっ」



 先ほどよりも大きな声で門田を呼んだ静雄は、その広い背中を強く押した。急な衝撃に門田は床に倒れ、その際硬いハードカバーの角に胸を打ちつけて苦い顔をする。静雄は倒れた彼の身体をまたぎ、横倒れになって胸を押さえている門田の身体を上から見下ろしていた。やっと普段の調子に戻り、何事か、と冷や汗をかきながら訴える彼の茶色い瞳がとてもいとおしいのだけれど、今はそんな光景を愛でる余裕もないようだ。パチン、と蝶ネクタイのホックを外して、静雄はひきつった笑みを浮かべる。






「煽ったのは、お前だからな」






 そう言って、反撃、とばかりに今度は困惑する門田の唇にキスを落とした。





















(ちょ、おい、静雄っ!)
(悪い、久々で止まりそうにねぇわ)



























Don’t leave me alone !





110515

……………………

百合っぷる…というより攻めっぷる…?静雄もドタチンも襲われてしまえばいい(←)


>>匿名様
遅くなりましてすみませんただ今上がりました…!
ゆりっぷる、とのことだったのでもっとこう「きゃっきゃうふふで見てるのも恥ずかしいかわいこちゃんずを書いてやるぜ!」と意気込んでいたのですがどっちも男前の攻めっぷるになってしまいましたすみません…><い、いつかリベンジを…!ぜひ…!
お持ち帰り自由ですので煮るなり焼くなりお好きなようにどうぞ!リクエストありがとうございました!










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