ザァ。足元がすくわれる感覚がする。引いていった波は白い軌跡を残して、足元に冷たい泡がまとわりつく。雨上がりで心なしか荒れている波打ち際に二人は立っていた。静雄のたくし上げたスラックスから見えるくるぶしが濡れている。白く伸びるそれに視線が釘付けで、臨也はその光景が酷く扇情的だと思った。
「…なんで海なんかに来たんだ」
「なんとなくだよ」
時折足を上げてわざと水飛沫を跳ねさせる臨也は至極楽しそうに答えた。黒いコートを纏い、同じようにたくし上げた黒いズボン、それに黒いシャツと全身を真黒に染めた彼が子供のようにはしゃいでいるのが不思議でたまらない。確かに顔だけ見れば幼くも見える彼だが、いつも言動がそれに見合わないせいでアンバランスに見えていた。
「シズちゃん」
「なん、っ」
ぼぅっと海を眺めていた静雄に、臨也は不意打ちに水をかけた。かなりの量を頭から被って、わなわなと震える静雄。
「…て、めぇ、何しやがる!!」
「あっはは!」
キッと睨みつけてそう吠えれば、臨也は水飛沫を上げながら海の深いほうへと走って行った。彼は迷うことなく奥へ奥へと足を進めていく。それを追いかけるでもなくただぽかんと見ていると、気づけば彼は腰まで波の下に沈んでいた。
「風邪ひくぞ」
引き留めるように静雄は叫ぶ。なぜだか、このままでは彼がどこまでも溺れて行ってしまいそうに感じ、少し怖かったこともある。ともかくその願いは届いたようで、臨也はようやく足を止め、振り返った。
「看病してもらおうって魂胆だから、良いの」
きっと、シズちゃんは助けてくれるんでしょ?
にやりと、濡れた頬に悪戯っぽい笑みを携えて臨也は水中へと身を預けた。その返答にまったく呆れたという顔をしながらも、眉根を下げた自分が少し微笑んでいるということを、静雄は知らなかった。
(君に溺れてしまおうか)
複雑依存
110424
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依存関係って、よく言えばすごく信頼してるってことなんじゃないかなぁ、と。その人のその部分をすごく信頼していて、それが必要だから依存するんですねきっと。
お題配布元:LargoPot