フラジオレット | ナノ










 夜の池袋、時刻は十二時を回ったあたり。俺は今、衝撃的な光景を目の当たりにしている。



「オー、イザーヤー」



 いつものように黒いコートを着込んで肌寒さに震えている俺の目の前にいるのはサイモン、と、シズちゃん。シズちゃんが目の前にいるのに罵倒も標識も飛んでこないのは、まぁ、不思議じゃない。この状況を見た者なら、(そもそもこの状況になった理由には頭を捻らせるだろうが、)一目瞭然。



「久しぶりヨー、元気カ?」
「うん、まぁ元気だけど…多分、君の抱えてる暴走列車が目を覚ますまではね」



 にこやかに挨拶を交わすサイモンの腕の中、正確には腕の上と言った方がいいんだろうか。すやすやと安らかな顔で寝息を立てる金髪のバーテンダー、平和島静雄。彼はサイモンに、その、いわゆるお姫様抱っこをされている形で眠りについていた。それはもう気持ち良さそうに。



「…なんでシズちゃんなんか抱えてるの?」
「シズオ、オ酒疲れてるネー。だからワタシ、ハコビヤ開業ヨ」
「要するに、飲みつぶれたシズちゃんを家まで配達してる最中って事?」
「ガッテン正解ネ!」



 ふぅん、とサイモンの妙な日本語は横目で流して、俺は眠っているシズちゃんの顔を覗き込んだ。上気した頬に少しのアルコール臭、それから汗をかいているらしく前髪が額に張り付いている。目蓋はきっちりを閉じられていて、まつげ長いなぁ、なんて。ぷに。その頬を指先でつついてみた。



「んぅ……」



 ぎくり、俺の肩が跳ねる。え、うっかり何してんのさ俺コレでもしシズちゃんが目覚めでもしたら俺の頭はリンゴよろしく彼の右手に握りつぶされてしまうに違いないっていうのに何してんのさ俺うっかりいいい!!

 そんなことを思いながら俺はびくびくしていたが、予想外な事に、シズちゃんはふにゃりと笑った。それから少し身じろぎをする。



「ん…さい、も…」



 上半身を反転させ、シズちゃんはサイモンの襟元をきゅっと握り締めた。なんだろうこのかわいい生き物は。6フィートを越える身長だというのに行動がまるで小動物のそれじゃないか。いつも俺には飢えに飢えまくった大型肉食動物みたいな顔しか見せてくれないくせに。そろーり、もう一度彼の顔を覗き込もうとする。が、残念なことにそれはサイモンに遮られた。



「起こしちゃダメダメヨ?」



 念を押すように、サイモンは俺の顔を見て微笑む。その有無を言わさぬような圧力(実際、体格差も相俟って、彼の雰囲気はいつだって俺を圧倒していた)に負け、俺は細く息を吐いて両手の平を彼に見せた。



「…わかったよ」



 くるりと踵を返し、俺は逆方向へと歩みを進める。去り際に未練がましくシズちゃんの幸せそうな寝顔をチラ見してみれば、その先には俺に向けたものとはまた違う笑みを浮かべたサイモン。腕の中のシズちゃんを優しい瞳で眺めている彼に波立つ気性を感じながらも、それはまるで憤る子供のようだと思い、俺は唇をかみしめる。そんなの知らなかった、なんだよちくしょう、だって、あのシズちゃんが大人しく抱えられているだなんて、そんな!



「…割り込む隙間もないだなんて、」



 俺はことさら深い溜息をつくと、諦めを胸に、深夜の池袋を後にした。




















(悔しいのでシズちゃん家の鍵穴にガムを詰め込んでおきました、ざまぁみろ!)

























隙間は埋まってしまいました















110424

……………………

気づいたらサイ静←臨になっていた…そして静雄さんまともにしゃべっとらんとかどういうことやねん…。そして毎度のことながらひどいタイトルである。

>>ユディルさん
遅くなりまして申し訳ありません…!危うくリクエストから一年経つところでした…(苦笑)
甘々サイ静…なのこれ…?え…?あわわごめんなさい臨也さんがうっかりでしゃばってます><へ、返品受け付けますので…!お持ち帰りフリーですので煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!
それでは、リクエストありがとうございました!










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