フラジオレット | ナノ





※サイツガデリ









「デリ!みてみて!!」
「見て、見て」
「…何やってんスか」



 くるりと振り返れば、満面の笑みではしゃぐ先輩方お二人がいた。それだけならば微笑ましい限りなのだが、今回俺が顔をしかめたのは彼らの出で立ちが普段と少し…いや、だいぶ違うものだったからだ。



「かわいいでしょ!いざやくんがくれたの!」
「サイケ、可愛いぞ」
「ふふふ、つがるのうさぎさんもかわいいよ!」



 きゃいきゃい言いながら、サイケは津軽の耳を引っ張っていた。…残念ながら、本来人間についているべき耳ではない、ふわふわとした動物の、ソレ。サイケは黒い猫の、津軽は薄くピンクがかった長いウサギの耳を頭から生やしていたのだ。もちろん、ソレは直接頭から生えているわけではなく、カチューシャの上から生えていたのだが。可愛らしく似合ってしまうから恐ろしい、そう思って俺は溜息をついた。



「ねぇねぇデリ、これかわいいでしょ?」
「あー…かわいいっすよ」
「俺も?」
「先輩も先輩も」



 無邪気にはしゃぐ子供達を見る仕事帰りのお父さんってこんな気分なんだろうな、となんとも枯れきった思考が脳にゆっくりと降りてくる。俺は半ばめんどくさくなりながらはいはいと返事を返していた。先輩方は可愛いが、早く開放して欲しい。悪いけど、俺は昼寝の続きがしたいんだ。

 まぁ、当然といえば当然なんだが、俺の願いは見事三秒で打ち砕かれることになる。



「デリのぶんもあるよ!」
「犬だぞ」



 じゃじゃーん、と崩れない鉄壁の笑顔でサイケが差し出したのは、茶色の新たな獣耳。思わず、きょとん。



「…は?」
「だから、犬だぞ?」
「いや、そういうことじゃなくてですね」
「つけてつけて!」
「いやいやいやいや、なんで俺がつけなきゃいけないんすか!!」
「なんでって…」
「みんな付けてるから?」



 ふわふわゆれるカチューシャを早速俺の頭に装着しようと迫るサイケを押し止めて俺が抗議の声を上げると、先ほどの俺と変わらぬきょとん顔で返されてしまった。ねぇ、うん、と顔を見合わせて首をかしげる二人の頭上で耳が揺れる。そう、先輩方は可愛い。可愛いものに可愛いものは許されるのだろうが、真昼間からソファの上で新聞を広げながらごろ寝をしているような俺には不釣合いにもほどがあるだろう。ソファの上まで侵攻してくるサイケに対し、俺は新聞紙で盾を作り応戦する。



「俺はいいっす、似合わないんで」
「デリとつがるはおんなじかおしてるよ?」
「いや、そうじゃなくてですね、」
「デリ、」



 す、と俺の防具が取り去られて、津軽がそれを後ろ手で器用に放り投げる。美しい放物線を描いて、臨也のデスクに着地するのが見えた。が、今の俺はそれどころではない。津軽の顔が五センチほどに迫る。



「デリ、頼む」



 息を多く含んだ、熱っぽい声が俺の頬を滑る。びくりと、俺の背が震えたのを見てか、サイケまでもが左から迫ってきていた。ちゅ、と目じりに口付けられて、また背筋が震える。



「ねぇ、デリ」
「なぁ、デリ」






 お願い。






 可愛い可愛い、悪魔のような先輩達に迫られて、俺はまたどうしようもなく流されてしまう自分に頭を抱えたくなるのだった。
























(先輩方が喜んでくれるならいいか、なんて)
(思ってる自分がいるんだが)
(……はぁ)








我が家の天使は悪魔です。





110209

……………………

まさかのサイケ静雄さん初登場という…うん…敬語がね…好きなんです…。

津軽のキャラが定まりません。(苦笑)










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