フラジオレット | ナノ





※門田総愛され
※キャラ崩壊






















「俺に決まってますよ!」
「いーや、俺だ!」
「私はどっちでもおいしいけどなー」



 ガラリと、バンの扉を開ければ何故だか白熱した言い争いが繰り広げられていた。薄暗い車内で、運転席の渡草とシートが倒された後部座席の遊馬崎がなにやら声を荒げている。呆れ顔をしている門田に二人は見向きもせず、代わりに「噂をすれば、だね!」と明るい声を上げた狩沢は催促するかのように右手を差し出して門田を招きいれた。このままじゃ通行人に迷惑がかかるな、と門田は招かれるままに後部座席に乗り込み扉を閉めた。



「…何やってんだ?」
「んー、いわゆる“修羅場”ってやつ?」



 狩沢は目当ての雑誌を受け取りがてら門田にそう告げ、口元に手を当てさらに肘を張るような動作をしながらニヤリと笑う。二、三回門田を小突いて、罪な男だねー、とわけのわからないことを独り言のように呟いてから、狩沢はちょうど遊馬崎と渡草の間の壁にもたれかかり雑誌を開いた。その間も男二人はわけのわからない討論を続けている。



「ぜーっったい俺っすよ!」
「何でそんなに自信満々なんだよ!」
「だって事実ですもん!」
「現実を二次元妄想とごっちゃにしてんじゃねぇ!」
「渡草さんこそアイドルドラマとごっちゃにしてるんじゃないんすか!」
「んだと!?」
「…狩沢、」
「なぁにー、ドタチン」



 状況説明を、頼むから。そう願いを込めた目で見れば、狩沢は雑誌から顔を上げて再度口角を上げた。彼女があの表情をした時点で既に嫌な予感はしている、が、それは見ないことにしよう。狩沢は閉じた雑誌を脇に置いて、うんしょ、と掛け声をつけながら隣に移動してくる。



「あの二人はねぇ、どっちがよりドタチンに相応しいかで争ってんの」
「は?」
「俺のほうが門田さんの隣にお似合いっすよ!!」
「会話のキャッチボールができてないヤツがお似合いなわけねぇだろうが!!」



 ずるりと、肩の力が抜け、身体が傾くのを感じた。



「大体お前は二次元に嫁が大量にいるじゃねーか!」
「三次元の嫁は門田さんだけっす!オールオッケーっす!」
「男だらけの修羅場っておいしいよねー」
「あのなぁお前ら……あー…もういいわ、」



 一段深い溜息をついて、ついには思考を放棄する。聞かなかったことにしようと心に誓い、門田は紙袋から取り出した真新しいライトノベルの表紙をめくった。夕暮れの車内で小さな活字を追い始めた門田の瞳は、一瞬、不適な笑みを浮かべた狩沢の表情を見逃した。声が上がり、再び視界に彼女を捉えた頃には、遅かったとも知らずに。



「でもさ、この中で一番のカップリングはやっぱり、」



 そう言った狩沢の顔に急に影がかかったように見えて、あれ、と思うよりも早く視界が反転する。気がつけば門田はその背中を硬いシートに預け、馬乗りになる狩沢を見上げていた。なにを、混乱に目を丸くしながらそう呟こうとした唇をふさがれて。ぱちりと瞬きをしたら、互いのまつ毛が触れ合う音がした。



「狩沢×門田だと思わない?」



 離れていった顔を呆然と見上げれば、ぺろりと口端を舐め上げていやに卑猥な笑みを浮かべる。瞬時に静まり返った車内に、何故だか急にトーンの低くなった狩沢の声だけが不釣合いで、リアルだった。



「そういえば言ってなかったけど」



 だからこそ門田は驚愕に目を見開いていた。キスをされたことにではない。いや、それにも少なからず驚いてはいたのだが、それよりも、なによりも。






「私、“男の娘”なんだ」






 腹の上に跨られた時に感じた、確かな、あの感触に。






「……かっ、狩沢ああああああ!?」
「いやいやいやダークホースすぎるっすよなんすか男の娘って!!ひばりくんっすか!?薫くんっすか!?」
「やだゆまっち、ひばりくんって古いよー」
「なんでもいいから早く門田さんの上からどいてくださいっすううう!!!」
「えー!せっかく押し倒したんだから、展開的に最後までおいしく頂かないと!」
「そんなお約束いらねぇっ!!!」
「というか狩沢さんだけずるいっす!俺も門田さんとキスしたいっす!!」
「私としては3Pも燃えるからいいんだけどー」
「冗談じゃねぇ!!お前ら門田さんにさわんな!!!」



 ぎゃーぎゃーと賑やかな周りを他所に、門田は未だ何もいえないまま、ただ泣きそうになる目頭を押さえることに必死だった。




















(はっ…「あの時俺はついに二次元との扉がつながったのかと」)
(門田さんが現実逃避を始めたっす)
(夢オチじゃないよ、ドタチン)
(無理矢理ナレーション始めても現実は変わんねぇっすよ…)


















リアリティーとは奇なるもの





110227

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何度も言うようですが、私の本命は♂狩ドタです。渡草のキャラ崩壊っぷりがひどいですね。そして、毎度の事ながらオチがない。










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