フラジオレット | ナノ





※来神臨♀静+門
※しずおとめ
※静雄と臨也は面識がない





















「かっ、門田!!!」



 ズザァァァ、と漫画さながらの大音量で教室に滑り込んできたのは平和島静雄。激しく動く彼女のスカートは完全にめくれてしまっているのだが、普段から長いスパッツの裾をちらつかせている静雄にはまったくと言っていいほど気にならない次第だったようだ。そんなことより俺に話したくて仕方がない、という様子で意味不明な身振り手振りを繰り返している。もちろん、言葉が出ないのは走りながら絶叫したせいで肺に酸素が足りなくなっているからなのだが。



「落ち着け静雄、どうした」
「あ、あった!!あった!!!」
「“あった”って…なにが」
「違う!!学ラン!!黒髪!!!」



 興奮した勢いそのままに叫ばれる静雄の言葉を脳内でつなぎ合わせてやっと、あぁ、あのことか、と俺は納得顔で彼女を見上げる。静雄は色の白い顔を真赤に上気させて声にならない声を発していた。



「会えたのか、あいつに」
「あっ、会えた!!話した!!!」
「そうかそうか、よかったな」



 よしよし、と無造作な金髪を撫でてやると、静雄はふにゃりと笑って照れくさそうに顔を伏せた。こういうところは本当にかわいいと思うのだ。親友のこの俺が保障する、彼女の一番のチャームポイントはこの照れたような笑顔で間違いない。少し落ち着いた様子の静雄は顔を上げて、またごにょごにょと控えめに口を開いた。



「それで、あいつ、俺のこと、“シズちゃん”って言ったんだ」
「なんだ、もうあだ名までついてるのか」
「あぁ」



 嬉しい、と小さく零した後、静雄はハッとしたように顔を跳ね上げた。どうした、とその顔を覗き込めば、みるみるうちにその顔が青ざめて震えだす。唇を震わせて、静雄は叫んだ。



「ま…また名前聞くの忘れた――――ッ!!!」



 教室中、いや、学校中にでも響き渡りそうな声量で叫んだ静雄は、くるりと踵を返すと「急いで聞いてくる!!!」とこれまた大音量で叫んだ後それはそれは恐ろしいスピードで教室を後にした。嵐の如く、(実際教室の扉は破壊され、机がなぎ倒された様は嵐の後のようだった、)俺の前を去っていった彼女が廊下ですっ転ばないことを祈りながら、俺は溜息をつく。






「ドータチン」






 すると、背後から清涼な声が耳に届いた。振り向けば、窓枠から顔を覗かせているのは黒髪学ランの、噂のアイツ。



「臨也、いたんなら声を掛けてやれよ」
「いやぁ、あんまりにも必死なシズちゃんがかわいくってかわいくって」



 ついつい意地悪したくなっちゃうよね、と穏やかな表情で笑う真紅の瞳は満更でもないようで、しかし性格の捻じ曲がったヤツだ、と嵐二人に挟まれた俺は何度でも溜息をつくしかない。片想いをする親友に全てを告げてやりたいものの、思い人である旧友には固く口止めをされている。進むに進まないことの次第にイライラしているのは、おそらく俺だけなんだろうが。

 そのときだった。



「門田、やっぱりアイツもういなかっ…」



 ガラリ、といつの間にか直されていた(おそらくクラスメイトの誰かが直した、)扉を開いたのは静雄だった。がっくりと肩を落としながら上目で俺のほうを見た彼女の視界には、もちろん俺のすぐ背後で油断しきっていた臨也も入っていたわけで。驚きと羞恥となんだかよくわからない感情がごちゃ混ぜになったような表情を貼り付けた静雄は、パニックのあまり滑らせた引き戸の取っ手をその手中で粉砕していた。



「あ、かど、あいつ、しって、え」



 ちょうど数分前のデジャヴのような光景だ、と溜息をついた俺は呆れた視線を背後によこす。お前が隠し続けてきたことがあっさりばれたぞ、と非難めいた目で見れば、意外なことに、臨也は笑っていた。ふ、と小さく息を噴出して、軽い身のこなしで窓枠を乗り越える。土足にもかかわらずなんのためらいもなく教室の中央を闊歩して、彼は静雄の目の前まで歩み寄り、ドアを握りつぶしている方とは反対側の手を取って、もう一度小さく微笑んだ。



「やぁシズちゃん」
「あ、おま、」
「俺は折原臨也。突然で悪いんだけどさ、」






 俺と付き合いませんか。






 ちゅ、と音を立てて手の甲にキスをした臨也はもうキザを通り越して恥ずかしかった。見ているこっちが赤面してしまいそうだ、と俺は口元を歪ませたのだが、もっと悲惨なことになっているのは彼女の方だった。あぁ、かわいそうなくらいに真赤になっている。



「返事は?」
「うぇっ!?あ、その」



 じわりと涙の滲む目元で、一度覚悟を決めるように喉を鳴らすと、静雄は本日最大級の笑顔で笑った。






「嬉、しい」
















 コレが俺の親友と旧友の馴れ初め話。おそらくそこらの通行人にこの話をすれば、十人中九人はこいつらが幸せバカップルになったんだろう、お前も苦労するなと俺の肩を叩くだろう。



 まぁしかし、残念ながら、現在の二人はと言うと、だな。



「いぃぃざぁぁやぁぁぁぁ!!!!」
「ははっ、シーズちゃーん、こっちだよ」
「テメェ、待ちやがれ!!!」



 自販機をとナイフを振り回しながら追いかけっこをするという、世にも奇妙なカップルになってしまったわけだ。正直、俺はもうこいつらと友達をやっていける気がしない。























(幸せならいいんじゃないですか?)






















A (loving) couple of friends





110126

……………………

にょ静をはじめて書きましたよよよ…!我が家のにょ静は名前が変わりません。両親が男の子が欲しかったので静雄と言う名前をつけられてしまったというありがちな設定。戦争コンビにとってあの追いかけっこは恋人達が浜辺で行う追いかけっこに相当します(笑)



>>サリさん
素敵なリクエストをありがとうございます初のにょ静でしたがいかがでしょうか…!
かわいい女の子を目指すつもりが元が静雄さんなのでなんともアグレッシブなことに…(苦笑)
イメージではにょ静は貧乳さんです(きりっ)
リクエストありがとうございました!








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