フラジオレット | ナノ









『このメールに本文はありません』



「…なにこれ」



 何度見てもそこには機械が自動的に打ち込んだ文章しかなかった。空白のメール。それも平和島静雄から。

 雑務や資料整理でしばらく家を離れられないでいた臨也が退屈そうにコーヒーをすすっていた際、ふいに携帯に届いたメールは不可解なものだった。何か面白い話でも転がり込んでは来ないものかと牡丹餅が落ちてくるのを待つ子供のように思っていた臨也だったが、メールを見るや否やこいつは一大ミステリーだ、と頭を抱えることになる。彼の考えることだけは全く理解できないのだ。さぁ、どんな意味があるのだ。このメールには、どんな、意味が、ピッ。



『…もしもし』
「シーズちゃーん、何アレ」



 そうして臨也は考えることをやめた。外に出ていないせいで鬱々としていた頭で考えたって分かるはずがないのだ、相手はあの平和島静雄なのだから。臨也は静雄に電話をかけた。コールは三回、切られることなく、また携帯が折られることもなくごく普通につながった。これもまた不可解だった。



「シズちゃんから連絡くれるのは嬉しいんだけどさー、今あんまり調子いいほうじゃないんだよね。だから頭も回んなくて」
『………』



 早口でまくし立てれば、電話口の彼は沈黙を貫いていた。しばらく待っても相槌のひとつもない。臨也は溜息をついた。



「で、どうしたの?」
『…忙しいなら、いい』
「忙しくはないけど」



 ハッキリしないのは嫌いだよ、と単刀直入に告げたところで、部屋中に無機質なチャイムが鳴り響く。そのタイミングの悪さに臨也はまた少しイラついて、「ちょっとゴメン」と言うと携帯を一度耳元から離して足早に玄関の扉へと向かった。ガチャリと、扉を開ける。プツリと、通話が途切れた。



「…忙しかったのか」
「…忙しくはないけど、」



 この展開には驚いたよ、そう素直に告げれば、彼は少しだけ眉根を寄せて不器用に微笑んだ。



「電話がなかったら、帰ってた」
「そう、」
「最近池袋にこねぇし」
「来るなって言ったのはシズちゃんでしょ」
「どっかで野垂れ死んでんのか、って」
「ひどいな」
「思ったら、ここにいた」



 やっぱり彼は困ったみたいに笑っていた。今まで感じたことのない静雄の不可解な雰囲気に、臨也は思考をめぐらせて喉元に引っかかっていた答えをどうにか掴み取る。そうして、玄関の扉を大きく開くと、にやりと笑い、臨也は口を開いた。






「まぁ、せっかく来たんだし、上がったら」






 静雄は俯いてぶっきらぼうに「あぁ」とだけ返事をしたが、その不器用な笑みが崩れたのを臨也は見逃さなかった。決して恋しいなどと零しはしない、緩みきったその柔らかい口元を見て、臨也はこの崇高な寂しがり屋になんと皮肉を言ってやろうかとそればかりを考えていた。























(君の苦手なコーヒーを入れて、飲み終わるまで話でもしようか)






















コーヒーブレイクと 
君からの合図






110109

……………………

静雄さんだってたまには会いたくなるんですよ、だって人間だもn(ry
最近シズデレ率が高い気がするのは使い回しが多いからだということに気がつきました、まる。









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