「右の瞼にキスを頂戴」 しっとりとした眼差しで振り返る彼女は美しい。きっとまた雨を見ていたのだろう。レースのカーテンを引いてから私の左隣へ身を寄せる。冷たいベッドに横たわる私に覆い被さるようにして、彼女は私の瞼に口付けを落とした。 「また痙攣が…?」 「…」 「そう…」 黙って目を瞑ると、彼女のたてる衣擦れの音の向こうに、微かな雨音が聞こえた。一時も絶える事のない雨音。まるでこのまま永遠にでも降っていそうな… 私は目を瞑ったまま声をかける。 「この雨はいつ止むかしら」 「…天気予報、見る?」 「いい」 「そう…」 ……、彼女と一緒に暮らすようになって、私は幸せだった。大好きだった。ずっと一緒に居たいと思っていた。二人きりの生活のなかで些細な事が重なった。意識の違いだとかちょっとした言動だとか。彼女とのコミュニケーションは少しずつだが減っていった。 薄目を開けて彼女の白い背中を見つめる。何を思っているのだろう。前なら彼女の言動に感情を見る事が出来ていた気がするけれど、今では何もわからなくなってしまった。彼女の気持ちも私の気持ちも。ただ恐らく私たちの中に唯一わかりあえる思いがあるとするなら、それは、 (きっと、後悔) ねぇそうでしょうと問い掛けても、返事はない。私ね、少し前から思っていた事があるのよ。私の右の瞼の痙攣は、あなたにとっての雨と同じに思えてくるの。そう思わない? ねぇ… (痙攣が治まらないのよ) (治まらないの…) その口付けで全てを止めて ∞ 2013/03/11 03:06 [0]top short |