おばけ生活が6年目にさしかかろうとしています。
私は祓魔師になるべく日々勉学に取り組んでおります。だけど全然わかんね。特に医学。
6年になるのにこの状態を保ててるって私すげーよって自画自賛。でも同時にフェレスさんって何でもできそうだし、私が悪質化しないようになんかしてるんじゃないかなと思ったり。だって私そこまで強靭的な精神してるつもりないし、まあ弱くはないだろうけどフツー?経とか唱えられること滅多にないけどやられた時は苦痛だしね。ああ、私なんでこんな目に遭ってるんだろうって泣くよ。
しかもなんか…いや、話がだんだん反れてきたけど今度バイオロイドの防御力実験するんだって。なんか武器で撃たれたり斬られたりするんだって。やっぱ私が憑依した状態じゃないとダメらしい。攻撃くらっても致命傷にはならないからとか言われたけど、私、下級悪魔だからね一応。そこんとこ分かってんのかしら。


「おー名前!見ろ、かわいいだろぉ!」
『うわ!似合わない!!』
「俺じゃねーよ」


半年ぶりくらいかしら、久しぶりに藤本さんがこちらに顔を出した。ご無沙汰してます。そんな当たり前の挨拶も忘れてしまうような、びっくりする光景がそこにはあった。
藤本さんがベビーカーをついていたのだ。
…いや、ベビーカーなんてついてるイメージがなかっただけですそれほどびっくりする光景でもないのは認めます。双子の赤ん坊を引き取って後見人になったっていうことは知っていたし、それが、そう、あの魔王の子どもだっていうこともフェレスさんに聞いた。初めてあの計画を聞いたあの時は"かもしれない"ことだったけど、やっぱり武器として育てることにしたらしい。今はまだ一歳だったかしら。あら、一歳にはまだなっていなかったかもしれない。不思議なことにサタンの力を受け継いだのはお兄ちゃんだけで弟の方は常人らしい。でも生まれるときに魔障にかかっちゃったみたいで、弟の雪男くんには私が見えていることになる。お兄ちゃんは力を封印してるから私のことは見えてないみたいだけど。


『わかってますよ。初めまして。燐くん、雪男くん』
「中々連れてこれなくてな。でもお前には会わせてやりたかったんだ」
『あはは、ありがとうございます』


なんか本当に久しぶりに赤ん坊を見たような気がする。二卵性なのか、似てない。でも可愛いなあ。
頬っぺたとかもっちもちしてそうだし、うわあ、抱っことか、できたらいいのに。
そしたらそんな気持ちが伝わったのか藤本さんがにやにや笑いながら抱きたいか?って聞いてきた。だ、抱きたいけど、私が抱いたら一般人が見たら浮いてるように見えますよ。いやここに一般人はいないけどさ。


「だったらいいだろ。ほら」
『いっ、いいです!私抱いたことないんです怖い!』
「んなこと言うなよなあ燐、雪男ー?」
『も、もうちょっと大きくなったら…三歳くらい…』
「重てぇだろ」
『いや、抱っこ、したいけど本当に怖いんで、はい。遠慮しておきます……』
「そーか…」


残念そうな顔されても。落としたら怖いもん。このなんとも言えない恐怖、わかる人にはわかるはず。犬もまともに抱っこできないのに赤ちゃんなんて抱っこできないよ。したいけど、無理。
でもベビーカーに乗っている二人の赤ん坊を見て、何て言うんだろう、母性本能?すっごく可愛くて、なんとなく羨ましい気分になった。なんせ子ども生んでも別におかしくない年だしね。生きていた頃と今を加算したら尚更。


『可愛いなあ』
「だろ?」
『人間ですね、全然』
「そりゃあな」
『いいなあ…』
「…名前」


名前を呼ばれてハッとする。い、いやいかんつい心の声が。聞いて気分のいいもんじゃないだろう。すみませんと急いで謝れば「かまわねえよ」と藤本さんの方が申し訳なさそうな顔をしたから自分の浅はかさにげんなりした。
生命というものは本当に神秘的だと思うよ。まあ詳しくは知らないけど。だけど私はもう生きてないし、新しい命を育むことも不可能なわけで、だけどそんなこと藤本さんに言っても迷惑だし、仕方ないし、自業自得なんて言葉がお似合いではないでしょうか。


「魂の、」
『はい?』
「魂の重さは21グラムなんだと」
『魂の重さ、ですか』


なんですか、それ。
そう聞いてみても俺もよく分からないとそんな返事が返ってきた。じゃあ何でそれを話題に出したんだろう。疑問が残る。


「こいつは生きてるだろ」
『生きてますね』
「でもこいつは悪魔だ」
『そ、そうです、ね』
「お前も悪魔だ」
『……はい』
「悪魔は生きてる」
『……、』
「お前は、生きてるんだよ」


その、藤本さんの真っ直ぐな目に、何も考えられない、何を考えたらいいんだろう。
魂の重さ。悪魔は生きている。そう、波長が合わずに物質界の人間たちには見えていないだけで。
私は、死んでいる。でも今は悪魔だ。悪魔は生きている。私は、生きている。


『や、やだな、藤本さん。私は気にしていませんよ』
「そうかあ?」


にししと笑う藤本さん。涙が出そうになった。生きてる、のか。私。
魂の重さ。21グラム。私は21グラムの生命体。生きている。私は生きている。
ああ、だけど、少し、難しいことを言うかもしれない。私は死んでいる。だから、やっぱり生きていた頃の苗字名前と今の私は違う生き物ということになってしまうのだろうか。それとも、死ぬって、霊魂と肉体が離れ離れになっちゃうだけで、私はやっぱり生きていた頃の苗字名前なのだろうか。
藤本さんは気を使ってくれたんだと思う。なんて優しい人なんだろうって思った。だけど、泣きそうになったこの意味を、きっとこの人は知らないだろう。
はっきりしない生き物って、なんかちょっと怖い。


11.かるいおもい



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