『青い夜』
それはサタンが世界中の有力な聖職者を大量虐殺した日のこと。次々と身体中から血を流し青い火をふきながら祓魔師たちは死んでいった。故に、青い夜。
ここの研究員の人も何人か殺られた。生き残った人もいるし、家族を殺されたって人もいる。
その光景を、私も見た。
目の前で人が死んでいくのを見たのは初めてだった。不思議と、それこそ私はロボットみたいに無感情にその光景を眺めていた。恐ろしいくらいに、何も思わなかった。
『青い夜』から数週間。一度ストップしていた研究も再開。死んだ人たちはその分足されていて知らない顔がちらほらあった。あの夜のせいで忙しいのかフェレスさんは顔を出さなくなったし、藤本さんなんてもっての外だ。ここの雰囲気は一層暗くなり、もうなんか、勘弁してくださいって感じで。サタンふざけんなよこの野郎と叫びたい気分で。

そんな私は今、絶体絶命なわけで。


『あ、あのぉ…』
「黙れ悪魔」
『は、はい…』
「黙れと言っただろ」


返事もアウトっすか相当厳しい。
今日のお仕事も終わり寄り道する場所もなく自宅…もとい位牌に帰ろうとしている途中、彼らは現れた。見たことのない人なので新しく配属された人なんだと思う。
まあ、それはいいとして、なんだ、この状況は。
後ろに詠唱騎士、右に騎士、左に手騎士、目の前に竜騎士。みなそれぞれの武器を持ち、さらにそれを私に向けていた。


「みんな青い夜の被害者だよ」
『それと私に武器を向けているのに何の関係が』
「簡単でしょ。馬鹿でもわかる」
『…私が悪魔だから?』


返事はなかった。沈黙のイエス。
青い夜での復讐的な何かだろう。たかが霊ごときに祓魔師が4人。なんてことだよこの野郎。勝ち目はゼロ。良くて成仏、悪くて消滅。私に残された道はそれしかないってか。
ここは交渉で、なんとかなる連中でもないか。ああ、ちくしょう、どうしたらいいんだ。


「悪魔は駆逐するべきだ」
「駆逐で済むか。殲滅させるべき」
「どちらにせよお前は危険だ。悪魔なんぞを祓魔師にさせて、反逆でもしたらどうするつもりなんだ上は」


フェレスさんにも似たようなことを言われた気がするけど、それはないって。今の聖騎士が藤本さんである限りそれは有り得ない。でもそれを言ったところで、悪魔の私に聞く耳はもたないだろう。
どうしたらいい、どうしたら。何の力もない私にできることなんかない。まだ消えたくないこれ以上死にたくない。だって私にはまだやりたいことだっていっぱい残ってるし、やらなきゃいけないことだって、あるのに。


「最後に言い遺す言葉は?」


本気だ、本気の目だ。本当に私を祓うつもりだ。
息なんてする必要ないのに息苦しくなってきたし、なぜか目がしみて痛い。体は重たくて動かないしすごく寒い。あれ、これってどっかで経験したことなかったけ。こんなこと、前にもあった。
全身がだんだん濡れてきている気がする。それよりもやばい。息ができなくてなんかよくわからない体内にある色んなものが破裂しそうだ。そんな私の異変に気が付いた祓魔師が続々と目の色を変えて武器を構える。ああ、遂に私が、私が終わっちゃう。


「アインス、ツヴァイ、ドライ!」


ポンッ!と、魔法でも出したような音、そしてドイツ語でのカウントに私は聞き覚えがあった。


『フェレス、さん…』
「フェレス卿!」


いつの間にか私を取り囲んでいた人たちはそれぞれ小さな一人分くらいの牢屋に閉じ込められていた。それはもちろん、フェレスさんの術。
とりあえず、私は助かったらしい。
さっきまでの息苦しさはなくなって気分もマシになってきた。死ぬかと思った…もう死んでるけど。


「一体何の騒ぎですか。こんなところで武器なんて構えて物騒な」
「私たちは悪魔を退治しようとしたまでです…!」
「この霊は祓魔対象外です。ちゃんと言っておいたはずですが」
「青い夜が起きて、こんな悪魔のために働こうなんて思えません!」
「悪魔のためではありません。我々は物質界のために武器をつくっている。違いますか?」
「しかし…!」
「今回は見逃してあげましょう。この子に手出しは無用。私が責任をもちます」
「…、わかりました」


牢から出してもらった彼らはすごく悔しそうな表情をしていた。な、なんか責任感じちゃうな…ってなんで私が責任感じないかんのやい。わけわからん無関係の私がなぜこんな目に遭うんだ。
ギロリと私を睨んでから彼らは去っていった。一気に張りつめてた何かが解かれて思わずその場にへたれこむ。
祓われるかと思った。ていうか、祓われるところだった。さっきの息苦しさに全身が濡れてきているような錯覚。多分、死ぬ間際のこと思い出したんだろう。
ああこんな状況になるとこうなるんだ。初めて知った事実に、ため息しか出てこない。


『怖かったぁぁ』
「全くあなたは…少しは気を付けなさい」
『無理だろいきなりだったもん』
「そうではなくて、もう少しで恐怖に呑まれるところでしたよ」
『え?』


恐怖に呑まれる、とは。初めて聞く表現に首を傾げるところかもしれない。だけど大方予想はついてしまったので私は静かに冷や汗を流した。
一応、お尋ねしますが、それってつまり、私が悪霊になりかけてたってことで間違いはありませんか?
容赦なくフェレスさんは頷いた。まじかよでも自覚とかないんだもんしょうがない。しょうがない。


「まあ、間に合ってよかったです」
『は、はい、まじで…』


本当に祓われるところだった。あぶねえ。気を付けれるかはわからないけど気を付けようと思います。


08.1、2、3の救出劇



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