私の名前は脇役研究員N(28)。性別は男。血液型はA。星座は蟹座。
正十字騎士團の祓魔師及び研究課研究員をやっていて今は霊の憑依できるバイオロイド開発に尽力している。
そもそも死者甦生がどうのこうのでこの研究が始まったらしいんだけど私にはあまり興味がないから詳しくは知らないんだ。私はただ機械がいじれたらそれでいいしね。この仕事はわりと性に合ってる。

そのバイオロイドに憑依する霊も決まって、研究はバイオロイドに憑依できるかどうかではなくいかに人間に近いロボットを作ることができるかに移り変わっていた。
まあ霊との相性もあるようなので、実験に協力してくれるなんの変哲もない少女の霊は必要不可欠だった。

その少女の霊は突然フェレス卿が連れてきた。きっと誰でもよかったんだと思うけど、こんな若いのに霊なのかと思うとちょっと切ない気持ちになった。

その少女の霊の待遇は、お世辞にもいいものとは言えないな。悪質化を防ぐため実験時以外には位牌に閉じ込めてるし実験のときだってあ、やばいなって思ったらすぐに経を唱える。お仕置き程度のものだけど。あ、お仕置きという言葉はすごくしっくりくるな。少女はここに躾られているサーカスの犬みたいな、そんな存在のように思える。
惨いなあとはたまに思うけど、だってあの子はもう生きていないんだし。私にとったら実験体以外の何物でもない。人の形をした悪魔だと捉えるのが無難だろ。
こんな考え方のが楽だし別に負い目とかも感じないし、ていうかそうじゃなきゃこの職業やってられないよね。

あの子はいつも一人で私含む研究員だって彼女と必要以上接触しようとはしない。
でもフェレス卿だけは違うな。あの子を気に入ってるのだと思う。週1ほどの周期でこちらに来たと思ったらあの子好きなだけからかって茶飲んですぐに帰っちゃうし。この前はなんかすごく美味しそうなお菓子をあの子に見せびらかすように食べてたな。あの子涙目だった。
それでもフェレス卿といる時は少し楽しそうに見えて、わりと人間らしくてちょっと暖かい気持ちになった。
あの子も最初の頃こそ積極的に私たちと会話をしようとしていたんだけど私たちは邪険に扱ってる節があるからすぐに諦めちゃったな。当然と言えば当然だ。

研究が始まってもう4年になるけど、当然のごとく私は年をとった。いやでもまだまだ若いよ?でも少女は何も変わってない。それも当然のことだ。
むしろ4年もこんな生活をしてるのにまだ悪霊になってないのは尊敬すべきだと思う。こんな生活して楽しいわけないのにね。もともと精神は強い子だったのかな。


『…お疲れ様でした』


げっそりした顔でよろよろと位牌へ戻る彼女の背中を見ながら私は…私は特に何もしないけど、お疲れと労りの言葉をかけたところで返事はこないのに毎回めげずによく言うなあと感心する。

よし、じゃあ言い訳は感心したから、それにしよう。だって他に理由なんて見つからないし、ただ、なんとなく、一方的なんて私が人としてどうなんだろうとも思ったわけだし。


「お疲れ様、名前ちゃん」


びくんと肩が跳ねて、くりくりと丸い目が私を捉えた。


「明日もよろしくね」


彼女の顔が一瞬、泣きそうになったのを私は見逃してはいない。ああやっぱり、この子は人間、だったんだよな。それで今も、そうありたいんだと思う。
なんのためにこのバイオロイドを開発しているんだと考えたら、それってこの子に生きているという疑似体験をさせてやるためではなかったか?平たく言えば。狙いは武器なんだろうけど。
なら私たちもそうやって接してあげるべきなんじゃないかなあと今さら思ったわけだ。深い意味なんてないよ。

よろしくお願いします。
そう照れくさそうにはにかんで、頭を下げた少女の霊は、ここの誰よりも人間らしく見えた。


07.脇役研究員N(28)の語り



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