とりあえず、私がクソ研究のモルモットになってから4年が経った。
毎日目に見えないくらいの進歩がある。最近はロボット(バイオロイドというらしい)に憑依した状態でやっと人間らしく歩けるようになった。あとはジャンプができるようになった。憑依するのが人間じゃない分、関節や神経とか問題が山積みで人間らしい動きをすることができない。
ゆえに、4年でここまでしか進歩してない。そのくらいこの研究は難題で果てしない長期戦。一体いつまでかかることやら。第一バイオロイド自体がまだロボットって分かるくらいだ。
幽霊は食欲はあるけどお腹は空かないし、変な呪文唱えられた時以外は痛みも感じない。あ、あとは祓魔用の武器で攻撃された場合な。人間らしい生活もしてないからちょーっと生きてた時の感覚を忘れてしまいつつある。恐ろしくて何度も泣いた。位牌の中でしくしく泣いた。
話に4年もの間が空いたのは本当に何もなかったからだ。ひたすら実験、研究、改良、実践、実験…そんな地道なことが続く日々の中、楽しいことは何もないし、いつもと違うことが起きるのはとても珍しい。
そんな今日はいつもとは違うことが起こる日だった。だからちょっとそわそわしてる。
会うのは6回目くらいかな。フェレスさんよりも更にお偉い人で正十字騎士團と言ったかしら、今日はその組織の親玉、聖騎士が研究所に顔を出しに来ていた。


「よお、名前。元気してたか」
『藤本様こんにちはー』
「"様"はやめろって」
『ボスのがいいですか』
「どっちかってーと」


嫌だね。心の中で嘲笑ってやった。
この人、藤本獅郎さんのことはわりと好きだ。結構お若いのに聖騎士やってるなんてすごいなあとも思う。
だから私は敬意を込めて藤本様と呼んでいる。3回に1回くらい。本人は嫌がってるから半分は嫌がらせだ。いや、嫌がらせが大半だ。
藤本さんは神父もやっているようで、今は修道院で暮らしているのだとか。でもこの人がお人好しではないことは知ってる。こーんなに優しい笑顔をするのに私のことはちゃんと実験対象として見てる。
正直、こんな研究だって倫理的にどうかと思う。人権皆無だし私人間じゃないけど。そんなのをただ優しくて甘いお人が許すだろうか。
ああ今なんか自虐的で笑える。でもとにかくそういうことだ。


「今は休憩中か?」
『はい。さっきまで部屋(位牌)にいたんですけど藤本さんが来たっていうから出てきました』
「そうかそんなに俺に会いたかったか」
『否定はできませんね。藤本さんみたいな人ここにはいないし、気が滅入りそうで』
「悪質化したら祓わにゃならんからな」


そうならないように気を付けます。
後で知ったけど私が位牌で過ごす理由の一つにそれも入ってるらしい。私の悪質化を防ぐため。外でうろちょろしてたら悪霊になっちゃうケースが多いらしい。
ちゃんとした私の依代…つまりバイオロイドが完成すればそのバイオロイド自体が位牌のような役割を果たしてくれるみたいなので比較的人間らしい生活が送れるようだ。あと何年かかるか分かんないけど、待つしかない。


「メフィストはちゃんと来てんのか?」
『ええ。まあ一週間に一度くらい』
「少ないな。責任者のくせによ」
『でもお忙しい方なんでしょう?』


あなたもですが。そう言うと藤本さんは困ったように笑った。
別に責任者と言ってもフェレスさんが研究してるわけじゃないしね。名前だけだ。あとは首謀者でもあるらしいけど。様子はぼちぼち見に来るけど大抵私をからかって茶飲んだらすぐ帰る。非常にうざい。
でも、来てくれたらまあ、賑やかになるし暇ではなくなるから嬉しいと言えば嬉しいの、か?いや、やっぱりうざいと思います。毒吐くし。


「俺ァ、まあ確かに忙しいがな」
『知ってますよ。この間京都でやらかしたらしいですね』
「なぜそれを…!」


意外そうな顔。いやここの責任者がフェレスさんな時点でそんな言葉は無用だと思う。そう言ったら納得したようで苦虫を噛み潰したような表情でフェレスさんへの小言を呟いていた。
藤本さん、なんか京都まで行って刀を強奪してきたらしい。瀕死の状態で。フェレスさんが悪い笑顔で言っていたからきっとフェレスさんもなんかしたんだと思う。わりと長い付き合いになったしあの人の性格は何となくわかった。ろくでなしだ。


「…お前ってパッと見学生だよな」
『まあ、そりゃ』
「子育てもしたことねーよなあ…」
『ないですよ。なんですかデキたんですか?うわ、神父のくせに』
「バカ野郎違ぇよ」


じゃあなんだってんだ。
首を傾げると藤本さんは何か私に言おうとしていて、でもそれを言うか言わないかで悩んでいるみたいだった。
言いたくないなら別に言わんでもいいんだけどね。いやこれは藤本さんが私に言って有益か無益か考えてる感じか?見定めされてる?あんまりいい気分はしない。悲しいかな、自分で言うけど無益だよ。


「…お前って口かたい?」
『というより喋る相手もいないので気にする必要はないかと』
「それもそうだな」


そこは嘘でいいから否定してほしかった。否定されても虚しいだけだろうけど。
そしたら藤本さんはこそこそ話をするために私に顔を近づける。そんなに聞かれたらまずい話なのだろうか。とりあえず言ってくれるってことは少なくとも信頼はあるようなので喜んで待ち構えとく。


「実はな、サタンの子を育てることになりそうなんだ」


へぇーそうなんだサタンの子…って、えええええなんでそんなとんでもねーこと私に教えるんだよ常識的に考えろよバカじゃねーの本当にバカじゃねーの!


05.これでわたしも共犯さ



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -