私は死んだ。その事実を受け止めるのにさほど抵抗はなかった。私にも、よく分かんないけど。
変な男に会ったあと、私は気を失って気がつけば冷たい台の上で、機械ばかりが置いてある怪しい部屋にいて、黒の服を身に纏った人たちに囲まれていた。
ここで一つ訂正。冷たい台の上だと言ったけれど、私は冷たいと感じることができなかった。いや、それもおかしいな。なんて言えばいいか分かんないけど一応冷たいとは理解できる。でも冷たいとは思わない。自分が温度計になってる、感じって、そう言えばいいのかな。


「実験は成功だ!」
「まだ早い。こいつは試作だぞ」
「でも成功したようなもんじゃないか!」


テンションの高いおっさんと、テンションの低いおっさん。どちらもおっさんなんだけど性格はてんで違う。飛び交う実験、試作という言葉。まだ私には状況が把握できていない。寝ている体を起こそうとすると思ったようにうまく体が動かせなかった。
それもそのはずだった。不思議に思って自分の腕に目をやれば、あり得ない光景に私は目を疑った。
腕が、機械になっていた。
腕だけじゃない。足も、お腹も、どこも、全部、全部、人の体をしていない。ぎゃあああ!そう叫んだはずなのに、声が出ることはなかった。
どういうこと、どういうこと。私はどうなってしまったんだ。動かない体に出ない声。辛うじて頭が動かせる程度で他は本当に、中々動こうとしてくれない。


「…やはりまだ体との接触が悪いみたいだな」
「動けないみたいですし、喋れそうにもないですね。ま、そこまで高性能なボディーではありませんし、もっと改良が必要ですね」
「ていうかまずは外見でしょう。皮はもうできてるのか?」
「はい。あとは貼るだけですね」


私は、とんでもないことに巻き込まれてしまったんだろうか。さっき見た怪しい格好をした男が見えた。
その男の口はにんまりと弧を描き、胡散臭さが滲み出ているような顔をしている。「では、今はとりあえず抜いておきましょう」その男の手が私の額に置かれると、なぜかすんなりと起き上がることができた。でもそれは、機械の体を置いて。
色々思うこともあったけれど、突然の解放感に私はただ安堵した。ああ、腕が動く。足も動く。辺りも見渡せる。だけどその安堵も一瞬で、見渡すことができた現実に今度は急に怖くなった。黒の集団。怪しい男。横たわっている機械、ロボットと言えばいいのかな。そして、私という存在。
わけもわからずにただ混乱しているとその怪しい男が私に手を差しのべてきた。そうだ、この人の名前はメフィスト・フェレス。
メフィスト・フェレスは「突然申し訳ない。説明をするので、どうぞ奥の部屋へ」そう私の手を引いて、部屋の奥へと歩き出す。多少の躊躇いもあったけど何の抵抗もないままついていくと途中、鏡があった。そこに私の姿は映ってなくて、だけどそれもこの大きな不安の小さな一つでしかなく、考える間もなく通りすぎただけだった。


02.私に最悪のレクイエムを



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