「
いとこ以上、」
それなら、両思いだろ?
◇夜の山
ふ、へえっくしょーんと、正義が大きなくしゃみをした。
「だーから、上着持って来いっていったろーに」
「うー、別に、寒くないし」
「強情もん」
「だから、寒くないって」
じいちゃんと正義の言い合いに心の中で笑っちゃいながら、一生懸命に足を動かす。
昼間の山道ですら、オレにとっては難所だと言うのに、夜なんて。
ちょっとでも気を抜くと躓いて転んでしまいそうだ。
「勇気」
「ん?」
「早くない? 足平気?」
小さな声で正義が声をかけてくれた。
平気だよ、と笑うと、正義も笑う。
「辛くなったら言えよ? 休みながら行けばいいんだし」
「うん」
優しい正義の言葉が嬉しい。
オレの後ろを歩いて、オレが転ばないか、遅れないか、見ていてくれてる。
学校の友達にそんな事されたら、多分、ちょっと馬鹿にされた気がするんだろうけど、正義にされると、嫌じゃない。
自分の情けなさがちょっと恥ずかしいけど、嬉しいから、不思議。
この辺りかなあ、と言うじーちゃんの声に、オレと正義は周りのクヌギを見て回る。
そんなに山を登ってきたわけじゃない。
こんなところにクワガタとかカブトとか、本当にいるのかな。
「あっ」
「?」
「いた。ほら」
オレを振り向いた正義の右手は何かを摘んでいた。
照明を当てながら、そろそろと顔を近づけると、あ、カブトだ。
結構、大きい。
「ほら」
「え?」
「手」
「え……ぅわ……」
正義に手首を掴まれて、その手のひらの上にカブトが乗せられた。
どうしよう……!
正直、オレ、虫はあんまり得意じゃなくて。
カブトとか、初めて、触るし……。
手のひらの上の微かな重さと、皮膚を突っ張るような六本の爪にびっくりした。
「なんだ、勇気は虫が苦手か」
オレの手のひらを覗き込んだじいちゃんに笑われて、顔が熱くなる。
せっかく連れて来てもらったのに、正義が呆れてないかなって……怖い。
◇ ◇
勇気の手のひらに乗ったカブトを摘み上げると、眉毛をへしょんと下げた勇気がチラッとこっちを見た。
そんなに怖かったかな?
「ごめん、無理やり載せて」
「! ううん! ごめん」
「なんで、ごめん?」
ぶはっと笑うと、勇気もほんのりと笑顔になる。
虫、怖いのかな。
そういえば、この間オレがバッタを捕まえるのを見ているだけだった。
「嫌だった?」
「違う、ちょっと……びっくりして……カブトいたね」
オレの指に摘まれてもぞもぞ動くカブトを目を丸くして覗き込む勇気にほっとした。
良かった。
ほんとは来るの嫌だったのかなって思ったんだ。
ああ、良かった。