「
みんなのうたうたい」
いっぽんでもにんじん
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#童謡からの自分的小説
より転載。加筆。
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「一本で〜も
ちんちん」
ガッ!!
最低な鼻歌。
凶悪な音。
横目で見下ろせば、まな板の上のにんじんが縦半分に割れていた。
ゆらゆらとゆれる二欠片のにんじんの間に、包丁が鉛色に光っている。
怖えよ……。
普通に、怖え。
「……二本あったら、怖いよな」
「えっ? なにが?」
きょとんと俺を見上げた大きな瞳に、俺の聞き間違いだったかと一瞬思いかけて、それを否定する。
間違いなく、言った。
ちんちん、って言った。
この外見に騙されてはいけない。
「怒ってる?」
「? 意味わかんないよ?」
困ったように笑いながら首をかしげる様子は、とても演技には見えない。
でも、騙されるな、俺。
「悪かった。もう、一人で帰らないから」
「え?」
「待つ。お前の用事が済むまで、教室で待つ。だからごめん。許して」
「……やだ、それ。わんこみたい」
「犬でもいい。お前を待つ。先に寮に帰らねえ。誓う」
「ほんと、わんわ〜ん」
俺の腕にタッチしながら、かわいらしい顔がくすくすと微笑む。
……これは、許されたか?
いや、まだだろう。
騙されるな。
「ごめん。好き。好きだよ。
……愛してる」
「…………ウゼェ」
「!」
オクターブの下がった声にビクリと固まると、また物騒な音が響きだした。
まな板の上。
無残に細切れになっていくにんじんを見ながら、股間にもって行きたくなる手を、ぐっと押しとどめることしか、俺にはできない。