「
みんなのうたうたい」
おおさむこさむ
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#童謡からの自分的小説
より転載。加筆。
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おおさむこさむ。
山から小僧が泣いてきた。
何と言って泣いてきた。
寒いと言って泣いてきた。
朝の気配が迫ってきているとはいえ、外はまだ暗い。
何かが木戸を叩く音がした。
たった一回の、本当に微かな音。
聞き間違えじゃないかとすら思う程のそれに気づいた自分を、よくやったと褒めてやりたい。
煎餅布団から起き上がってちゃんちゃんを羽織ると、かじかむ指を白い息で暖めながらつっかえ棒を外す。
そっと空けた戸の隙間から、白い裾が見えた。
……名前を呼ばれた気がした。
軋む戸の音にかき消される程小さな声で。
聞き覚えのある、でも、こんな所で聞く筈のない声で。
勢い良く開け放った戸口に、いる筈のない人がいた。
だから、思ったんだ。
幽霊なのじゃないか、と。
でも、じっとこちらを見つめる目に、自分が映りこんているのが見えて。
氷の魔法が解けたかのように我に返った。
「喜一……?」
暫く発するすることがなかった幼馴染の名前を呼ぶと、真っ白な瞼が一瞬黒い瞳を隠した。
見れば、薄い衣一枚を身につけただけのその体は蒼白で、ただ鼻と耳と膝小僧、──それから首筋に残る斑点の赤みがやけに目につく。
自分でもなぜそうしたのかわからない。
無意識に抱き寄せた細い体は冷たく冷え切って、震えていた。
「喜一」
「しょうきち……」
「喜一」
「寒い。寒い。……庄吉」
俺の着物を濡らす喜一の涙が暖かい。
どこもかしこも冷たい喜一の体から流れ出した温もり。
喜一の匂いとは違う、青臭い臭気に、目の前が真っ赤になる。
ぎゅっと抱き締めると、喜一の細い指が俺の体をきつく掴む。
「寒いんだ……」
震える理由を寒さのせいにする喜一を暖めるために。
俺の体温(ねつ)を喜一に移すように。
細い、細い、体をかき抱いた。