「
みんなのうたうたい」
魔法のピンク
過去有イケメン×苦労性平凡
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ちょっと重なりすぎた。
大学時代から付き合っていた彼女と別れた。
結婚したい彼女と、まだその踏ん切りがつかない俺。
仕方ないけど、彼女って存在がなくなったのは痛かった。
その後、田舎の母親が脳梗塞で手術した。
幸い命に別状はなく、経過観察で入院している。
でも、そのすぐ後に父親が事故で人を怪我させた。
骨折と打撲で全治一カ月。
性質の悪い相手ではないし、保険も入っていたから問題ないらしい。
けれど、父親の落ち込みは激しく、精神科にかかるようになった。
兄貴は結婚詐欺に引っ掛かって、100万程スられたらしい。
100万で済んで良かったと思う。
落ち込んでたわけだ。
俺。
だからって人に当たるのは間違ってた。
下げた頭をそっと上げると、同僚が困ったように微笑んでいた。
今日もピンクのネクタイが、嫌味じゃなく似合っている。
「ううん、こっちこそ。無神経だったのかなって、反省してる」
「違う。俺が、勝手に」
妬んだんだ。
いつも幸せそうに笑う同僚を。
男のくせにピンクのグッズを集めてて。
なよなよしている訳じゃない。
それが似合ってしまう爽やかな顔面。
スマートな振る舞い。
それに吊られて寄ってくる女性社員と楽しげに話をしている様子も。
無性にイライラして。
何で俺だけ。
こんな。
こんななんだ?
当たった。
ガキみたいな俺。
ほんと、ガキ。
「真鍋、これ、やる」
「え?」
差しだされたのはリップクリーム。
「あ、まだ使ってないから」
「え……イヤ……え?」
そういう意味じゃなく、何でそんなものくれるのか分からん。
しかもピンク地に白いドットとレースの模様が可愛らしいリップクリーム。
どう考えても、俺が持つようなアイテムじゃない。
「ピンク、見てると幸せにならない? 俺、真鍋には笑ってて欲しい」
ふわりとした笑顔に男前なせりふ。
つらいこと かなしいこと
どんなこともうひょひょひょひょ
まほうのピンクにそめちゃおう
ちっ。
イケメン……め。
そう言うことは女子に言えよ。
俺の顔がピンクに染まる。