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とりとめのない小品

つかれた男の話

ツイッタータグ「ホラー」をもう一丁
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「大好きな人がいるんだけど、でもその人には連絡もつかないし、なかなか会うことができなくて。時々さ、気が向いたときに家に来てくれて、でさ、もう無茶苦茶に愛し合うんだ。朝起きるといつも居なくなっちゃってるのは寂しいけど、彼の愛の証が僕の体に刻まれてるから平気なんだよね」



「なー、それって都合の良い男って奴なんじゃねーの? いつ来るかわかんねーのに、毎日遊びにもいかねーで家でずっと待ってるんだろ?」

 うちの店のバイトに入って三ヶ月、毎日のようにシフトが入っている成田君に告白すると、さっぱりきっぱり振られた上に、その傷口の上に激甘の惚気をぺとーりと垂らされて、さすがの俺もナーバスよ。恨み節の一つや二つ、軽く唸れちゃうってもんだわ。

「……だからって、この後どう、って誘いはお断りだよ」

 溜息と共にピシャリととどめを刺されて「ぐう」と喉がなる。意外と出るもんね、ぐうの音。
 なんてーか、俺もさ、恋愛なんて諦めて久しい訳よ。まずゲイってだけで望み薄。そりゃいるにはいるんだろうけど、普通に生活してりゃ大体の奴は隠してるし「あ、こいつ……」なんてニュータイプでもなけりゃティキリキリ来ないって。それなのにさ、こんな身近にタイプの子がいて、しかもたまたまお仲間さんだって分かっちゃって、その上、俺なんかを気にかけてくれる優しい子だったりしてさ。

「望み薄でも頑張っちゃうってーの」
「薄いんじゃなくて、ないの。ゼロ。ヌル。無」

 ノーと言える日本人だね、成田君。いつの間に日本人はそんなに進化したんでしょーか。

「ねーねーでもさ、俺イケてない? めっちゃモテてたんだよ、これでも」

 口を尖らせられば、成田君が俺の顔を真剣に睨みつける。

「タイプじゃない」
「イケメンなのは認めてくれる?」
「……まあ、それは……」

 ぶつぶつ言いながら小さく頷く成田君に、喜びが胸いっぱいに広がる。ほんと可愛いな、成田君。力一杯抱きしめたいのに、それが叶わないのがとても切ない。

「成田! サボってないで、皿下げて来い!」
「はいっ! すみません!」

 店長の怒鳴り声に成田君が反射的にホールへ向かう。戻ってきた彼は、皿やカトラリーを山のように抱えて随分危なっかしい。

「大丈夫か?」
「お前の所為で怒られたし」
「悪い」

 プリプリしてても成田君は可愛い。ふふっと、笑ってしまうと、本格的に怒らせてしまったらしい。

「つーか、ほんと、ないから。お前なんて。地縛霊とか。ファミレスのキッチンでセックスしろってのかよ、この変態」


 あー。

 ねー。


 でもさ、俺が言えた義理じゃないけど浮遊霊だってどうかと思うよ。そんなのとセックスしてたら、そのうち取り殺されちゃうって成田君。


 優しいのも、程々にね。


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