「
労働讃歌」
痣
監察医+遺体
遺体検案
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ジッパーを下げると、見覚えのある顔が現れて、ドキリとした。
顔見知り、ではない。
こちらが勝手に彼の事を知っている。
「男性、23歳、記念病院へ緊急車両で搬送中に死亡。くも膜下出血」
助手が資料を読み上げるを聞きながら、手を合わせる。
23歳。
若い。
彼を愛していた人を思って心が痛んだ。
どれだけ彼を大事にしていたか、よく知っている。
「……死因ははっきりしてるの?」
「……そのようですね」
「ああ、それは、遺体にちょっと……」
言いよどむ助手の言葉を不思議に思いながらも、遺体を袋から台へ移す。
無機質な照明に照らされたその体に目を奪われた。
「……凄い……」
はっきり縄目が分かる程の痣が、体中に浮き出ている。
まるで大蛇が体に巻き付いているかのように。
「さあ、始めよう」
隣で呆然とする助手を促して、全身をくまなく観察していく。
警察は、この痣に犯罪性がないかを確認したいのだろう。
なんて無粋なんだ。
マスクの下の口が歪む。
興奮に体中がざわざわとする。
所感を読み上げる声が上ずっていないか、そればかりが気になった。
「頭頂部、外傷なし。開いてみよう」
カルテにある患部を確認すれば、脳動静脈奇形からの出血が原因だとわかる。
血圧の上昇による出血、だ。
何も変わった所はない。
検案書にサインをすればおしまい。
後ろ髪を引かれる思いで、美しい体を袋に納める。
もっと、眺めていたかった。
涙が出るほど美しい体。
愛おしい体。
彼はモデルだ。
私が嗜好するアングラなジャンルの、だけれど。
あるフォトグラファーが専属で彼を撮る。
その作品集から伝わる愛情の深さに、見ている私まで彼に恋をした。
犯罪性?
そんなものは無縁だ。
分かりきっている。
何度も同じ位置に、丁寧に掛けられた縄。
彼の美しさを際立たせるための。
愛を伝え合うための。
あの青黒い刺青のような痣は、そうして出来た二人の愛の証なのだから。
それを体に刻みつけて逝けた彼は幸せだろう。
喫煙所で紫煙の先を辿りながら、彼を羨む。
悼む気持ちをリセットする為の強いニコチンも、今日は必要なかったかもしれない。
彼も、彼の恋人も、酷く妬ましかった。
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(ili′Д`)人でなしな話になってしまった・・・。
監察医の知識もありません。
すみません。
なんかもう、すみません。