「
ワンドロ」
すき、きす
第26回お題
『好きだと言う度』
『虚勢』
『郵便受け』
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互いの舌がビールとワインで散々だ。色気のかけらもないキス 。お互いの酒気が混じり合って、何が何だか分からなくなる。
チャンポンなんて悪酔いするに決まってる。
くらくら、ふあふあ。
気持ち悪いんだか、気持ちいいんだか、鳥肌が立った体が震える。
嫌だ嫌だ。これじゃ、負けている。
「好きだよ」
はっ、言ってら。
体を弄られて息が上がる。
「好き、松浦くん…」
チープな言葉だ。
三輪の体に手を伸ばせば、捕まった。暴れて逃れようとするが、逆に三輪の体に手のひらを強く押し付けられて、しっとり汗ばむ硬い感触に少しだけひるむ。
嫌だ嫌だ。何をひるむことがある。自分と同じ男の体だ。怖がる必要はない。
「はぁ……好き。夢みたい」
「うるせえ……」
三輪が好きという度にそれをかたっぱしから否定する。
人から貰うその手の囁きを信じてはいけない。そんなものはただのスパイス。本質は自分の気持ちだ。それさえブレなければ、何があっても無様を演じずに済む。
「松浦くん、スベスベ……はあ、きもちい」
「変態臭い」
「顔も体も全部イケメンとか、ちょームカつくんですけどー」
「っア!」
がブリと首に噛み付かれて、体の芯がキュッと引き締まる。でかい口。硬い鼻筋。でかい手。太くて重たい腕。汗臭くて、何処か獣臭い気がする体臭。
三輪だ。
三輪が。俺を、触っている。
そういう意図で、触っている。
嘘だろ?
「松浦くん、勃ったね」
舌なめずりをした野獣が、口角を上げて俺の顔を覗き込んできた。擦り付けあう下半身に硬いものが当たる。
「お前もな」
「うん、松浦くん、ちょーエッチな顔してるから、興奮しちゃった」
それはお前の方だろう。
白い目を向ければ、鼻面にキスされる。ニコニコと締まりのない顔。甘ったるいったらない。
絡めあう足の付け根に手を伸ばして、三輪の盛り上がった部分を握る。ジャージ越し。その形を、硬さを確かめるように手を動かせば、三輪の目が三日月のように細った。だらしのない口から湿ったため息が漏れて、俺の顔にかかる。睨みつけてやれば、うっとりと、き も ち い い、と小声で囁くのがキモチワルイ。
「拙い感じが、たまんない、いだったいだい!」
「俺様の美技に酔いな」
「ちょ。まって、いだ、なんだっけそれ、いたーいー」
ヒーヒー大げさな三輪のジャージのゴムを引っ張って、離す。パン、と腹が鳴った。
「脱ぐ?」
「脱がねーの?」
「脱がしてもいい?」
なんでこうこいつは変態臭いのか。自分で手早くスウェットを下せば、恨みがましく口を尖らせる。それに噛み付いて、唇をねっとり舐める。その舌は上下の唇に挟み込まれてあっと言う間に自由を失った。
ふあふあ。
くらくら。
あ、あ、このキスは、好きだ。
いやらしい水音の合間に、暗い廊下の先で何か微かに音がした気がした。