「
ワンドロ」
曲がり道の先
第40回お題
『沈黙』
『ワインレッド』
『曲がり道』
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その先のカーブを道なりに進めば社員寮が見える。
「っごめん……!!」
バスの待ち時間を理由に、なんとなく二人肩を並べて歩くことになった駅からの家路。沈黙を破ったのは三輪だった。
「松浦くん。もう……、俺……」
「おい、こんな所で!?」
「だってえー。我慢できないよ……むり」
「ちょっ!」
上背のある三輪を支えきれるわけもなく、足がもつれる。天下の往来。見ず知らずのお宅の塀にもたれて、なんとか転倒を免れた。
重たい。
苦しい。
べっとりと俺にのしかかる三輪の体温がやたらと暖かく感じた。
ふーふーと息を荒らげる三輪の鼻息が耳をくすぐるのがクソ憎たらしい。
「そんなの……」
思わず舌打ちが漏れる。
身勝手だ。
俺がどれだけ我慢していると思っているのか。
苛だたしい。本当に。こういうところが大嫌いなんだ。
空が赤い。暮れなずむ夕日に、俺たちの巣が真っ黒な影絵を描いている。大した愛着はないけれど、あそこから始まったのだと思えば、それなりに心に響かないこともない。
今からあそこに帰るのだ。
帰って、そして……。
……ベッドに。
「俺だって!!」
もう限界なんだ。
今すぐベッドに入りたい。
眠たい。
遅くまで深酒をした次の日に遊びに出かけるなんて、正気の沙汰じゃなかった。
「まつうらくうーん……」
「犬か」
「ううーん、むぉう、めが……」
「何を言ってるのかわからん」
「ぬむ、むま……」
「だまれ」
這々の体でなんとか帰り着いた俺の部屋、そのまま二人ベッドにもつれ込む。なんで俺の部屋なんだとか、お前の部屋は隣だろうとか、思わないでもないのだが、今はそれどころじゃない。互いを絞め殺す勢いで手足を絡ませ、マットレスを虐める。
「んっ。む、あ」
噛み付くようなキスは思いっきりぞんざいだが、悪くない。
「やべえ。……好き」
「あ。ん」
「……なんだよ。くそっ」
「まううらくーん、も、あふ……」
目が開かない。
脳みそは半分以上機能停止中だ。
絡まる体はお互い硬くて、気持ちいいどころか痛いけれど、居心地いい。埃まみれで、汗臭いし、歯磨きだってしていない。外出着はシワになるだろう。でも。心地よくて。キスを繰り返しながら、いつの間にか幸せな眠りに落ちていた。
「いやーん!! お肌がガサガサ!!」
「…………」
「やっだー、顔を洗わずに寝ちゃった!!」
翌朝の奇声に揺り起こされるまで。