ワンドロ

水族館

第32回お題
『水族館』
『フェティシズム』
『心残り』
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 手に垂れてきた白い液体をペロリと舐めとるのがエロい。口の周りをペロペロと舐め回すのもエロい。
 俺の視線に気づいてはにかんだように笑う。

「甘い」

 じゃあ何故そんなものを買った。

 ソフトクリームなんて、男二人でいてチョイスする食い物じゃない。

「エロい」
「ひえっ? 何が」
「全てが」
「え、えええ……」
「今すぐエロいことしてやりたい」
「ちょ、まつうらくーん、ここ、ここね、どこだと思ってるのー」

 水族館だ。
 言われなくても分かってる。
 話題のアートアクアリウムの展示だとか何だとか。起きて早々に引っ張ってこられた。

「まだ触り足りない」
「ひーん……ごめんなさいいい」

 恨み節に目をキョロキョロさせる三輪を視線で犯す。この男、少し油断した隙に、また俺を置いて寝やがった。アルコールと、射精。さぞや良い夢が見られたことだろう。
 おかげさまで、俺は盛大に欲求不満だ。
 お前のその、ソフトクリームで甘ったるくなった唇で構わない。ちょっと俺様に寄越せ。
 まだだ。
 まだ足りない。
 まだ、味わい足りない。

 せっかく許可が出たというのに。

 にっと笑った時に少しめくれる上唇も、深く弧を描く口角も、薄い下唇も。今まで物欲しげに見るだけだった──三輪が寝ている間に何度か触れたことはあるのは極秘事項だ──それを、思う存分触れるようになったというのに。

「何でこんな事に……」
「や。デートっていったら水族館かなって」
「で……っ!?」
「え? 恋人になったからにはデートだよね」
「こ……い……?」

 モジモジと体を揺らしながら顔を赤らめる三輪を凝視するしか出来ない。

「買い物は友達とも行くけど、こういう所はさ! いかにもデート! って感じでしょ? もう、なんか、ドキドキするよね」

 目をキラキラと輝かせながら、ソフトクリームのコーンを齧るアラサー。ポロポロ落ちるカスが気になって仕方ないのは、現実逃避だろうか。
 
 恋人、か。
 恋人なのか。
 俺たちは。

「キレーだよね」

 一度来て見たかったんだーと、女のようなことを言う三輪のバックには巨大水槽。美しく造形された海の中を様々な色形の魚が泳ぐ。洒落たカフェスペースに男二人。家族連れや男女のカップルが多い中、俺たちは浮いている。そう気をつければ、視線を感じるようになった。

 見られている。
 鬱陶しい。



 注目されていたら、三輪にさわれないじゃないか。



 薄暗いスペースならばチャンスがあるかと狙っていたが、どうやらここでは不可能らしい
 昨夜できなかったあんなことやこんなことが頭の中でパンクしそうだ。

 だから、唇を舐めるんじゃない!

 にっこり満足げに笑いかけてくる三輪の、その胸ぐらを掴んでだらしない口元に噛みつきたい衝動を抑えるのにかなりのカロリーを消費した。俺もソフトクリームを食べるべきだったかも知れない。


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