「
ワンドロ」
くすぐったい
第28回お題
『反省文』
『くすぐったい』
『ゴミ箱』
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覆水盆に返らず。
なんで失態だ。言うつもりはなかった。そう遠くない未来、どちらかがこの寮を出て、そのうちに風化するはずだった気持ちだ。
勢いでこんな状況になってしまったけれど、伝える気は無かった。伝えてどうする。そう、思っていたのに。
やらかした。
脳内ではフルスピードで原因究明と今後の対策が討論されている。どうしたものか。相手の顔を凝視したまま、二人とも動けずにいる。
「ウッソ……」
初めに動いたのは三輪。思わずといった様子で、口から漏れたその言葉に、無意識に俺の眉間に力が入る。
ほう。
嘘にしたいならそれも良いだろう。
好都合だ。
「……あっ!! ダメダメ、聞いたから! ちゃんと聞いたから! 松浦くんが俺のこと好きだって!」
俺様の言葉を遮った三輪が耳元で喚く。
本当に、こんな男を好きになるだなんてありえない。ありえないのに、なんでこんなことになっているのか。
「離せ」
「やだっ。えっ、ほんとに両思い? 夢じゃなくて?」
「離せ」
「あっいたっいたい!」
「夢じゃないようだな」
掴みづらい頬を思いっきり捻ってやれば、長い手足による拘束が緩む。遠慮なく締め付けられて苦しいったらない。
「離せ」
「やだっ」
「……離せ」
話が通じない。
イライラして三輪足を蹴ると、また一段階拘束が緩む。
良い加減にしてほしい。
「離せ」
「なんでっ!」
「捨てるんだよ」
さっきから気になって仕方ない。俺たちが動くたびにカサカサと煩わしい音を立てる紙を目線で示してから、ゴミ箱を顎で指す。
「あ、そっかー」
両手をパァっと耳の横で開いた三輪を一睨みして、悪戯書きをひとまとめに握り潰す。ヘッドボードの脇に置いてあるゴミ箱に投げれば、綺麗な放物線を描いた。
「ないす」
ベッドの上、半跏趺坐の俺様の肩を抱く三輪が、耳元に怪しげな吐息を吹きかけてくる。くすぐったさに身をすくめるのは悔しい。無反応を返せば、首筋を柔らかく喰まれた。
ふわりと覆いかぶさるように抱きしめてくる一回り大きな体。硬くて熱い体。時折、ふふっと漏れて俺のうなじを擽る低い笑い声。
慣れない状況に、尻の座が悪くてたまらない。