「
可愛い尻尾が見えてるよ?」
雷
雑種フリーターおっさん×血統書付き紳士
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ヴーという短い振動音がした。
……どこだ?
散乱した室内を見回して溜息が出た。
そろそろ片付けねえとヤベえかな。
手の届く範囲の物をひっくり返すと、弁当屋のビニール袋の下にお目当ての物を発見する。
スマホだかスマフォだかよく分からねえが最新機種らしい。
使い方が全く分からねえ。
なんとか電話としては使える程度だ。
ディスプレイの着信通知は非通知番号。
最悪に低かった血圧が、ピクリと跳ね上がる。
ああ、着替えねえと。
その前にシャワーか。
くんくんと体臭を確認して顔をしかめる。
よっこらしょ、と薄っぺらい万年床から重たい身を起こした。
窓際に座って外を眺めていた。
高級ホテルの最上階は空が近い。
暗雲が渦巻く空は飽和状態で、今にも雨が降り出しそうだ。
「やあ、待たせたかな」
「や、別に構わねえよ」
ノックと共に入室した紳士がハットを持ち上げて微笑む。
静かな声。
落ち着いた佇まい。
それでも存在感が物凄い。
格ってヤツかな。
いじましい程短くなった湿気た煙草を、灰皿に押しつける。
高い料理でも乗ってそうな灰皿に、初めは驚いたものだ。
「……カーテンを……閉めてくれないか」
上着を脱ぐ彼を見つめていると、ちらりとこちらをみて顔を強張らせた。
「んなもん、閉めても一緒だろ」
「だが……」
「何度も言っているがな、この部屋はぜってえ選択ミスだぜ?」
「……」
暗い顔をする彼の顔が閃光に照らされた。
驚きに眼を丸くする彼の口が大きく開かれる。
ばりばりばり!!
「っひああぁぁぁぁ…………!!」
空が割れるような音に、悲壮な叫び声が重なる。
同時に、弾丸になった彼の体が俺にぶつかった。
腰を落としてその衝撃を逃がすと、そのまま二人でベッドに転がり込む。
「ひっ……ひ……」
「大丈夫、落ちつけ、ほら……」
ひくひくと震える体を優しく抱きしめて撫でてやれば、鼻先を俺の胸に擦りつけて来る。
ピカっ!
がしゃーん!!
「っ!! ひ……ぃぃ……ぃぃ……!!」
雷鳴が轟く度に、思い切りしがみ付かれて苦しいわ、引っかかれた皮膚は赤く蚯蚓腫れになるわ、散々だ。
それでも。
こんな情けない彼の姿を俺だけが知っている、という優越感は計り知れず。
俺の口元にはうっすらと笑みが浮かんでいたりする。
まあ、彼は気付きゃしないだろうが。
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天気が悪くなりそうな時は呼び出しを受けます。
いつでも駆け付けられるようスタンバイと言えば体は良いですが、単なる引きこもりでしょうか。
壮年〜初老の二人。
偶然の嵐の夜の出会いとかが良いですね。
そこで、ぶるぶる震える紳士にむらむらとして……。
なんて感じでどうでしょう。