「
可愛い尻尾が見えてるよ?」
縁
イケメン鴉×鈍感無自覚鼠
両片想い
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りっちゃーん、と遠くから声を掛けられて笑顔を向ける。
手を振れば、耳に届く黄色い声。
可愛いなあ。
よくうちにお参りに来てくれる高校生たちだ。
うちの神様は縁結びの神様だから、参拝者も若い子が多い。
微笑ましいよね、そういうの。
「よお、ねず公」
「よお、……今日も黒光ってんな」
「そんな褒めんなよ」
「褒めてねえよ、ふらふらしてんじゃねえよ、ドラ息子」
「敵情視察だよ、リキュウちゃん」
「敵ってなんだよ、意味分かんねえ」
授与所の低い軒先からこちらを覗き込むニヤ付いた顔に、精一杯の悪態をつく。
だけども内心は、もう、パニックだ。
そんなに覗き込んだら近いって。
顔。
近いから。
精悍なその顔を直視できずに、無意味にお守りを並べ替えたりする。
顔が赤くなってないだろうか。
変な態度だと思われてないだろうか。
畜生。
見てんじゃねえよ、糞カラス。
「嘘、嘘。神社なんだから、お参りに来たに決ってんだろ」
「自分ちに参っとけよ」
「いや、ウチ厄除けだし」
こっちの神様にお願いしないとね、と言い残して本殿に向かうアトリの後ろ姿を見送る。
流石に神社の息子なだけあって、流れるような動作は遠目に見ても様になっている。
境内に柏手が小気味良く響いた。
何をお願いしているんだろう。
やっぱり恋愛成就なんだろうか……。
似合わない。
と思うと共に、自分の中に湧き上る黒い感情に眩暈がする。
「お守りも分けてもらおうかな」
軽やかな足取りで戻ってきたアトリがニヤリと笑う。
「……この一番高いのにしとけ。霊験灼かだ」
「ざけんなよ。んな金持ってねえよ」
「んだヨ、ケチんなよ」
「うっせ。……あ、それ。それ、今持ってるの、分けてくれ」
「……これ?」
「そ」
思わず握り締めていた小さなお守りをアトリに手渡した。
完全に女子高生向けにあつらえてあるお守り袋は、小さな淡いピンクの生地で作ってある。
アトリの大きな手の中で居心地が悪そうだ。
「めっちゃご利益あるとか、流行ってんじゃン、これ」
「そうなの?」
「そなの」
「ふうん……」
だとしたら、アトリの願いは成就するんだろうか。
なんて。
……馬鹿げてる。
神頼みでどうにかなる訳ないじゃないか。
嬉しそうにお守りを懐にしまうアトリに苦々しい思いが渦巻く。
罰当たりだ。
でも、そうとしか思えない。
だって、神頼みでどうにかなるものなら、毎日毎日祈っている僕の恋愛が成就しないわけがないんだから。
畜生。
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お口が悪いりっちゃんです。
二人は幼馴染。
りっちゃんちはオオクニヌシ、アトリんちはスサノオですね。
二人のイメージもそんな感じ。
イケメンで、無自覚モテモテのりっちゃんです。
アトリが見張ってないと、エライ事になります。