「
死神の帰る場所」
その後の日常
いい大人と公私混同01
俺を見つめる藤本さんの視線を感じる。
正確には、俺の箸の動きを見つめているのだけれど。
素知らぬ振りをして食事を続ける。
最後に皿に残った椎茸を箸で摘むと、正面からの呼吸が微かに乱れた。
そのまま、ゆっくりと口に運んで、もにもにと弾力のあるその身をしっかりと咀嚼し嚥下する。
しょうが醤油のみのシンプルな味付け。
普通に美味い。
その間、こっそりと藤本さんの様子を伺っていた。
ごくり、と俺の喉が動いた瞬間、藤本さんの顔がくしゃりと嬉しそうに微笑んだのが分かって、つられて微笑みそうになってしまう。
どうも藤本さんは、俺が椎茸を嫌いだと思っているらしい。
基本的に食べられないものはない。
が、気分で食べたくない時はある。
多分、いつか、俺は椎茸を残したのだろう。
藤本さんは、それを目敏く見つけたらしい。
そういう食材がいくつかある。
藤本さんは、そういうものをたまに食卓に出しては、俺をじっと見つめている。
嫌いだろうと分かっているなら、細かくするなり食べやすく調理すればいいのに、大抵はごろりと丸焼きで出てくるから、毎回笑ってしまいそうになる。
本当に、予想のつかない人だ。
勘違いを正すのは簡単だけれど、彼の視線を受けるのは悪くない。
今は食卓に視線を移してしまった藤本さんをじっと見つめる。
コロコロと変わる表情は見ていて飽きることはない。
「っ!」
藤本さんの顔が思い切り歪んだ。
うぐうぐと唸りながら、箸を放り出して口を押さえる。
舌を噛んでしまったらしい。
突然の事に耐えきれず、ふっと笑えば、涙目が恥ずかしそうに俺をちらりと見た。
ずくり、と体の内側が熱を孕む。
涙目ね。
可哀相に。
怪我をしたなら治療しなくては。
たっぷりと。
心の中でほくそ笑んで、温くなった茶でひりひり乾いた喉を潤した。