死神の帰る場所
本編
捧げたモノ06

治仁くんの長い指が、きゅうきゅうと締め付ける私の内側を抉る様に犯す。
まるでセックスそのもののような激しい動き。
シーツに手と足の指を食い込ませても、濁流に飲み込まれそうだ。
ただ感じるだけで、何もできない。
酸素補給に喘ぐ口からは、自分でも驚くほど高く掠れた声が飛び出してしまう。

「ひ、ああっぅ、あ、や、ああ……ン、あ、うあア……」

「心の中で思っているだけなら自由だけど、こうして言葉にしてしまったら、……ね、もうなかったことにはできないよ」

「あ、あ……ヒ、ああ……」

霞む視界の中、治仁くんが浮かべる暗い笑いに心が締め付けられる。
何で?
何でそんな顔、するんだい?

「なかっ、た、事に、ンっ……しないで、っくれよ? うれひっ……、うれ、しいんだからぁっ……」

こんなに、喜んでしまっているのに。
体までそれに反応するくらい喜んでいるのに。
嘘だなんて、言わないでくれよ?
そうしたら、私、馬鹿みたいじゃないか。

「また、そんな事を言う。あなたは……」

「ど、うして……? だって、うれしいよ? 好き、だから。嬉しくて、どうかなっちゃいそう、だよ」

動きを止めた治仁くんが目を閉じて溜息をつく。
そんな、あきれないでくれよ。
溜息なんてされたら、私だって傷つくんだから。

しょんぼりとしながら、大きな手が覆い隠してしまった治仁くん顔を見上げる。

表情が見えないのは不安で仕方ない。
それがたとえ無表情だったとしても、やっぱり顔が見えないと。

……何とか言ってよ。
……やっぱり、嘘だったのかい?

「もう」

手の向こうからくぐもった声が聞こえた。

「…………もう?」

「退路はないよ?」

「……たい……?」

ん?
何の話だい?

「手放さない。どんな障害があっても、その障害があなた自身だったとしても、絶対に逃がさない」

「え?」

「後悔しても遅い。あなたを俺のものにする。──俺のものだ」

「!」

なんて……
なんて、顔をするんだろうね、君は。

脳髄が痺れる。
顔が熱くて、鼓動が早くて、息が苦しい。

ああ、もう、魂、持っていかれちゃったよ、確実に。
ふわふわと、今、浮いてるんじゃないかな、私。


「好きだよ、藤本さん」


あれ、本当に、私、死んじゃってないかい?
ものすごく都合のいい言葉が聞こえたよ?


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